第 52 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
教育講演 01
部位/臓器 乳腺
演題名 非浸潤性乳管癌(DClS)の組織学的ならびに生物学的特性
出題者および所属
東北大学大学院医学系研究科腫瘍外科学 大内憲明
束北大学医学部附属病院病理部 森谷卓也
症例の概要・問題点
要旨 非浸潤性乳管癌(DCIS)は、乳癌検診へのマンモグラフィの導入を機に、益々増加することが予想される。しかし、DCISの組織学的診断はしばしば困難であり、その治療指針に苦慮することが多い。DCISの生物学的特性、ならびに自然史を解析することにより、その診断基準を明確にすることが急務である。今回は、日本乳癌学会研究班(大内班)の成果を中心に、DCISの組織学的診断基準を提言するとともに、LOH解析によりDCISの生物学的特性を考察する。
DClSの組織学的診断基準 浸潤癌(IDC)手術症例の中で、生検の既往歴を有する症例についてのアンケート調査を実施、生検標本を収集、再鏡顕し、1997 Philadelphia Consensus Coferenceに準じて診断した。88症例の解析をもとに、DCISの病理診断に関する指針をまとめた。増殖性乳管内病変(proliferative ductal lesions)のカテゴリー分類として、 1) 異型のない増殖性乳管内病変(proliferative ductal lesion without atypia, PDWA): 1-a) 軽度mild(上皮細胞が基底膜上3-4層に増殖するもの)、1-b) 中等-高度 moderate-florid(上皮細胞が基底膜上5層以上に増殖するもの)、 2) 異型を伴う増殖性乳管内病変(proliferative ductal lesion with atypia, PDA): 構造異型や細胞異型を伴い、癌との鑑別を要するもの。異型乳管過形成(atypical ductal hypeplasia, ADH)を含む、 3) 非浸潤性乳管癌 (DCIS): 細胞異型、構造異型等の所見により、癌と診断しうる乳管内病変、とした。 なお、1) DCISに伴う間質浸潤の判定は慎重に行うべきで、特に過剰診断に注意を要する、2) DCIS症例では、乳管内進展の範囲や将来のIDC発生の危険度を推定するため、核異型度、構築、壊死による亜分類を行うことが望ましい。
自然史 生検の既往歴を有する乳癌88症例の生検及び手術標本を収集し、上記基準で見直した。全て生検時良性であったが、見直しの結果、1-a) 軽度増殖7例、1-b) 中-高度増殖37例、2) 異型7例、3) DCIS 29例となった。手術標本88例のうち、IDCは61例であり、各病変からIDCと診断されるまでの平均期間を算出した。1-a) 軽度増殖 129月、1-b) 中-高度増殖 92月、2) 異型 78月、3) DCIS 66月となり、良悪性病変spectrumがIDC移行へのpotentialityと密接に関連することが示唆された。
生物学的特性 microdissectionによりDNAを抽出し、genetic instabilityを検索した。DCISにおけるmicrosatellite instability(MSI)は浸潤癌(IDC)と比較して、同頻度かそれ以上に認められ、DCISが生物学的にIDCに近似していることが示唆された。DCISからIDCへ移行した症例におけるLOH変異について供覧する。
結語 良悪性判定に苦慮する病変は増加しており、DCISの病理診断基準を確立する必要がある。我々が示した分類は、同側乳房に生検歴を持つ乳癌症例の解析で、生検後浸潤癌と診断されるまでの期間と関連を示したことから、有用な診断指標になると考えられる。一方、今後のゲノム解析の進歩によりDCISの個性診断に基づいた治療指針の設定が近い将来、具体化するであろう。