第 67 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 14 区分 B. 典型的・教育的・その他の症例
部位/臓器 神経系,下垂体,松果体 中枢神経系
演題名 剖検にて診断確定された脊髄症の1例
出題者および所属
橋本 優子1),阿部 正文1)2)
1) 福島県立医科大学医学部 病理学第一講座
2) 福島県立医科大学附属病院 病理部
症例の概要・問題点
症例 65歳,男性.
H18年4月より腰のだるさ,排尿困難,歩行困難感が順次出現し,病状が悪化していった.
同年8月,MRIで胸髄・腰・仙髄に病変が指摘され,原因不明の脊髄症とされた.次第に両下肢対麻庫が進行していった.
H19年2月蓐瘡感染・敗血症にて永眠された.

脊髄病変の検索を目的に剖検が行われた.
剖検所見 胸髄下部・腰・仙髄の腫大と軟化,前・後脊髄静脈の拡張・蛇行が観察された.
配布標本 脊髄(仙髄部)

問題点 病態および診断
最終病理診断 Foix・Alajounanine syndrome

コメント 本例は,下肢の筋力低下・知覚異常,膀胱直腸障害が段階的に増悪する亜急性の経過を示した. 剖検で,胸・仙髄表面に拡張・蛇行した脊髄静脈を認めた.光顕像でクモ膜下腔に壁肥厚,拡張・蛇行を示す細静脈と,腰仙髄中心部を主体とした横断性壊死が認められた. 以上から,Foix・Alajounanine syndrome:亜急性壊死性脊髄炎と診断.本症は脊髄硬膜動静脈瘻の終末像とされ,診断後硬膜部を検索したが,動静脈瘻は確認できなかった.現在は治療可能な疾患であるが,診断確定まで長時間を要し,診断が確定されない症例もある.早期診断にはこの疾患の認知・病態把握が重要で,本例がその一助となると考えられる.
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脊髄の肉眼所見(表面): 胸髄から仙髄部の表面(前面・後面ともに)に,拡張・蛇行した異常血管の発達が認められる.脊髄は腫大し,軟化していた. 仙髄部水平断割面: 軟化による変形のため,左右非対称となっている.脊髄実質内に拡張した血管あるいは小出血が観察される.灰白質領域に,キサントクロミーによると考えられる色素沈着がみられる. EM染色:クモ膜腔に拡張,蛇行した静脈が数珠状に観察される.器質化血栓を疑う不均一な壁肥厚をみる静脈もある.実質には海綿状変性があり,硝子様に壁が肥厚した小血管が散見される.

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EM染色: 正中裂部では,動脈には著変を認めず,静脈の外膜・中膜の線維性肥厚が目立つ.小静脈には血栓および再疎通像が観察される. KB染色: 周辺部と前索をのこし,髄鞘の脱落をみとめる.ほぼ横断性壊死の状態.馬尾の有髄神経線維の脱落もみられる.白質が優位に障害され,疎鬆化した基質に神経細胞が残存している.