第 67 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 12 区分 B. 典型的・教育的・その他の症例
部位/臓器 心 血管系 心
演題名 著明な心拡大と脂肪肝を呈した乳児の1剖検例
出題者および所属
吉田 正行1), 西川 祐司1), 大森 泰文1), 吉岡 年明1),
田村 真通2), 岡崎 三枝子2), 小山田 遵2), 野口 篤子2),
村山 圭3), 川村 公一1), 榎本 克彦1)
1) 秋田大学医学部 病理病態医学講座
2) 同 生殖発達医学講座
3) 千葉県こども病院 代謝科
症例の概要・問題点
症例 4ヶ月3週,男児.
家族歴 兄が10p欠失.
現病歴 38週5日に自然分娩(2,430g)で出生した.1ヶ月健診までは体重増加良好であったが,4ヶ月時に体重増加不良,筋緊張低下がみられた.4ヶ月3週に呼吸促迫,著明な心拡大(CTR70%),肝腫大が認められた.精査加療目的に前医から搬送中に心肺停止となり,蘇生術に反応せず死亡したため,病理解剖が行われた.
血液検査(前医) WBC 15,600 /μl, RBC 410x104 /μl, Hb 10.6 g/dl, Ht 32.8 %, Plt 38.6×104 /μl, TP 5.2 g/dl, Alb 3.5 g/dl, AST 95 IU/l, ALT 42 IU/l, LDH 381 IU/l, ALP 897 IU/l, CPK 58 IU/l.
剖検時肉眼所見 左心室と左心房の拡張による著しい心拡大が認められ,心内膜の著明な肥厚を伴っていた.先天性心奇形の合併は認められなかった.両肺には高度のうっ血がみられた.肝臓は淡黄色調で,脂肪の蓄積が疑われた.中枢神経系に明らかな異常はなかった.
配布標本 1. 左心室前壁 2. 肝右葉

問題点 病理組織診断および原因について
最終病理診断 ミトコンドリア呼吸鎖酵素複合体I欠損症による拡張型心筋症および高度脂肪肝

演者診断 ミトコンドリア呼吸鎖酵素複合体I欠損症による拡張型心筋症および高度脂肪肝
コメント 本症例では,心臓は左心室と左心房が著しく拡張し,拡張型心筋症の像を呈していた.更に心内膜の著明な肥厚がみられ,心内膜線維弾性症を伴っていた.肝臓は肉眼的・組織学的に高度の脂肪肝であった.原因として先天性代謝異常が疑われ,精査したところ,ミトコンドリア呼吸鎖酵素複合体I欠損症であった.
画像1 画像2
左心室の心内膜が著しく肥厚しており,心内膜線維弾性症の像である. 心筋細胞の核周囲が淡明化し,筋原線維が消失している.

画像3
肝細胞に大滴性脂肪滴の著しい蓄積が認められる(門脈域>中心静脈域).