第 67 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
スライドセミナー A03
演題名 関節病変の病理診断
―関節の非腫瘍性,炎症性病変を中心に―
出題者および所属
岩手医科大学医学部 病理学講座 先進機能病理分野
深井 高志
症例の概要・問題点
 関節病変の病理診断は病理医にとって比較的苦手な分野ではないかと思われる.その理由は関節の構造が一見複雑で,骨,軟骨,靭帯など様々な成分から構成されているため個々の組織を見分けることはできても全体的な構造がイメージしにくいということである.また,関節疾患でも腫瘍性病変の場合は生死にかかわる疾患であり,開葉系腫瘍が多いことからAFIPでも述べられているように病理医は興味をもって検討するのに対し非腫瘍性の関節病変は診断によっては治療にそれほど影響を与えないため関心をもって診断に臨むことが少なく,単に臨床診断の追認や場合によっては腫瘍性でないことを確認してもらえばいいという臨床側の希望も少なくないからである.
 最近の非腫瘍性,炎症性関節疾患をめぐる話題としては,関節リウマチにおいて生物学的療法といってTNFαやIL-6受容体などサイトカインに対する選択的な治療が始まり,症例によっては劇的な効果を示している.また変形性関節症も高齢化に伴いその予備軍はわが国だけでも600万人ともいわれ,今後,患者の数は増えこそすれ減少する傾向はまずない.それにつれて鎮痛剤や抗炎症剤など慢性疾患における薬の利用がますます増大することになる.したがって,このような状況において関節病変を的確に診断することは患者自身だけの問題でなく,国の医療負担からみてもいかに重要であるかがお分りいただけると思う.さらに関節疾患は感染性のものと自己免疫疾患などに伴う非感染性のものがあり,ステロイド治療の導入などでは効果が全く反対に作用し,致命的にもなることもある. このように非腫瘍性関節疾患の診断もきわめて重要なことであるが,病理診断を行う際に必要なことは,他分野でも同様であろうが,X線,CT,MRIなどの画像に関する知識や血液の検査デー夕などを大いに活用することであり,今後,これら放射線,内科,臨床検査の分野に関する知識がますます必要とされてくることになると思う. 今回のスライドセミナーでは初めに関節の構造とそれを構成する成分の組織学的な特徴について簡単に説明する.症例の呈示については,いくつかの代表的関節疾患をバーチャルスライドにあげて7月上旬の一定期間各自のパソコンで観察した後にインターネットで投票してもらいセミナーの当日に個々の症例について診断のポイント,鑑別すべき疾患,さらに治療との関係を説明する予定である.