第 67 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
教育講演 A02
演題名 自然死と異状死の境界
出題者および所属
富山大学大学院医学薬学研究部 法医学講座 教授 西田 尚樹
症例の概要・問題点
 日本法医学会の異状死ガイドラインにおいては,「異状死体とは犯罪性の有無にかかわらず,すべての外因死,死因が不明な死体,発症や死亡前後の状況に異常のある死体をいう.」となっています.本ガイドラインは医学界で十分に受容されていない部分もありますが,本邦では全死亡例の約15%が,この定義に相当すると考えられています.現在,検視,解剖を経た後には,その約90%は最終的に病死と判断されていますが,本邦の異状死体剖検率は欧米に比して著しく低いことから,その判断の正確性には幾ばくかの疑問が残ることも事実です.また,病死であることが強く疑われても,剖検で,決定的な病変を見いだせない例や,疾病が原因で身体に損傷が発生したと考えられるような場合,軽微な外傷受傷後の急死例,非致死的中毒を背景に有する急死例,保護責任者がその義務を果たしていたか疑問が残る様な乳幼児,高齢者病死例等においては,最終的に自然死か外因死かの判断に苦慮する様な状態が発生することも少なからず経験します.今回は,私が経験して参りました病理,法医解剖例の中から,心刺激伝導系や中枢神経系の軽微な疾病や損傷等を背景とした突然死例,疾病と外傷等の外因が競合して認められる例(特に入浴中の急死例),剖検所見以外の社会的背景から,死亡の原因を判断する必要性が生じた例など,自然死と異常死の境界領域に位置すると考えられる症例を御紹介させていただきたいと考えております.またそれを基に,現行の異状死体の検視や剖検システムの現状や問題点等についても皆様と意見交換させていただくような場になればと考えております.