第 66 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
A04
演題名 診断困難な前立腺の微小腫瘍性病変について
新日鐵八幡記念病院 病理部
金城 満
症例の概要・問題点
 近年の人口高齢化と血清PSAによるスクリーニングの普及により,前立腺癌に対する社会の関心が高まり,それとともに針生検による組織診断の件数も増加した.近年,以前にもまして,PSAグレイゾーンと言われるPSA値 4.Ong/ml・10.0 ng/ml症例が増加している.これらに含まれる前立腺癌の多くは,腫瘍径が小さく,針生検の一部に限局しているか,低分化のため範囲は広くても,鑑別診断が困難な症例であることが多い.
 今回,私に与えられたテーマは前立腺針生検組織診断におけるグレイゾーン症例の診断であるが,いくつかの項目に分けて,述べてみたい.第1に触れたいのは,前立腺癌の組織診断とその鍵となる所見である.「大型の円形核と大型核小体を有する細胞からなる小型単純腺房の増生」は従来から,言われていたことであり,現在も有用な所見である.しかし,それに1層性の腺房ということもよく言われているところであるが,この1層性腺房構造はHE標本では極めて評価しにくい所見である.我々は,病巣が小型で,良性病変との鑑別が困難な時には34βE12やp63による免疫染色を積極的に用いている.ややp63の反応性がいいようであるが,必ず両者を併用するようにしている.大型核小体は核直径の20%以上を占めるときは極めて有用であるが,結節性肥大の腺房や導管上皮細胞の核小体で巨大化することがあり,核小体のみを過大評価することは危険である.また,P504Sによる免疫染色も有用であるとの報告があるが,時に非特異性反応を示すことがあり,P504S染色のみの過大評価もその点で危険である.
我々は3種類の免疫染色は同時に行い,それぞれが独立して癌として所見に一致している場合に有用性が発揮されるものと考えている.次に構造であるが,1. 篩状構造や弓状の細胞増殖,2. 浸潤性増殖などはやはり組織学的な重要所見である.しかし,これにも類似の構造を示す良性病変があり,癌の篩状構造や弓状構造になれておく必要がある.Allsbrook, Jr, W. C. は前立腺癌の診断にはできる限り多くの標本に接することが不可欠であると述べている.
 第2には良性組織であるにも関わらず,腺癌の様相に類似したいわゆるbenign mimickersについて触れる.微小病変の診断で重要なことは癌類似の良性病変を知っておく必要がある.John R. Srigleyは癌類似の良性病変として,萎縮,炎症後萎縮性過形成,異形腺腫様過形成,精嚢粘膜などをあげている.更に,Cowper腺も稀に前立腺針生検で採取されてくる良性組織である.
 第3には多くの施設で採用されているGleason grading systemについて簡単に触れて,講演を締めくくる予定である.近年冒頭に述べたように血清PSA値の低い症例の生検が増加したことと多数症例の解析が容易になったことから,Gleason grading system の評価法が大きく変わろうとしている.しかし,一部は必ずしもconsensusに至っていない.我々の施設における評価法を紹介し,批判をいただきたい.