第 66 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
A02
演題名 末梢小型肺腺癌の診断
筑波大学大学院人間総合科学研究科
筑波大学附属病院病理部,つくばヒト組織診断センター
野口 雅之
症例の概要・問題点
 2004年にWHOが肺癌の組織分類を改訂し,現在我国でもこの分類が肺腺癌の組織分類の基本として用いられている.しかし,この分類は進行癌を対象にした分類であり,最近CT検診などで発見される肺前浸潤性病変である異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia, AAH)を含む小型の肺腺癌の分類には適していない.現在,小型肺腺癌分類として我々の提唱した分類(野口分類)(表1)が用いられることが多いが,診断の実際については施設ごとに,あるいは診断する病理医ごとに若干の差異が見られる.また,厚生労働省のがん研究助成金によるがんの診断基準の均てん化研究でAAHの診断基準が提唱されているがこの基準についても診断者の間で一致率が極めて高いとは言えないのが現状である(表2).
 今回,小型腺癌の診断で多くの病理医が困難を感じると思われる症例を幾つか選択したので,これらについて診断の考え方を考察する.また,少し古い診断病理研究になるが,2002年に病理学会関東部会の協力を得て,小型肺腺癌の診断セミナーを行った(Noguchi M, et al. Reproducibility of the diagnosis of small adenoarcinoma of the lung and usefulness of an educational programe for the diagnostic criteria. Pathol Int 2005;55:8-13).肺癌診断の専門家でない一般病理医が1泊2日で実習を行い予後の確定した多数の小型肺腺癌切除症例を検鏡するとともに肺癌の専門病理医,および肺癌を専門とする呼吸器外科医に末梢小型肺腺癌に対する考え方,診断の手順の講義をしていただいた.セミナー前後では診断の一致率が有意に向上する結果が得られた.このセミナーで診断が一致しない原因と思われる点として抽出された問題点についても解説を加える.

表1 末梢小型肺腺癌分類(野口の分類)
既存の肺胞構造を置換しながら増殖する腺癌
Type A 限局した細気管支肺胞上皮癌
Type B 限局した細気管支肺胞上皮癌の内部に肺胞虚脱を伴う.
Type C 限局した細気管支肺胞上皮癌の内部に線維芽細胞の増生巣を伴う.
     既存の肺胞構造を破壊しながら増殖する腺癌
Type D 低分化腺癌
Type E 管状腺癌
Type F いわゆる真の乳頭腺癌

表2 AAH診断基準
異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia)とは境界の明らかな末梢気道上皮の孤立性,肺胞置換増殖性病変で,隔壁は正常の肺胞隔壁に比べて軽度に肥厚している.大きさは概ね5mm以内だが,時に大きいものもある.病変内に虚脱巣やリンパ球浸潤,濾胞の形成を伴うこともある.ただしAAHと癌との鑑別に迷う症例については組織学的に以下の5項目のうち3項目以上を満たす場合は病理組織学的に上皮内がん以上の病変として扱う.
(1) 細胞重積が目立つ.
(2) 細胞密度が高く,核同士の重なりが目立つ.
(3) 核クロマチンが粗で,核小体を持つ.
(4) 腫瘍細胞が木釘状配列あるいは真の乳頭状増殖を示す.
(5) 腫瘍細胞の細胞丈が周辺の終末細気管支の上皮細胞の丈を超える.