第 66 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
A01
演題名 Obsever variationと均てん化の必要性
岩手医科大学病理学第一講座
黒瀬 顕
症例の概要・問題点
 病理医による診断の差異はobserver variation あるいはobserver disagreementとして従来から各組織・各病変で問題視されていた.Observer variationの生じる原因として,1) 経験の多寡,2) 稀少症例であること,3) 診断基準の不備,4) 病理医の理解度の違い,5) 疾患概念の変遷,等があげられる.診断基準に関してはその再確認によって診断の一致率が向上したという報告もみられ詳細な基準が求められる.疾患概念の変遷は,例えば胃のRLHと呼ばれていたものの多くは今日ではMALT lymphoma,狭義の進行性鼻壊疽はNK cell lymphomaであることが判明し,核分裂数が最重要といわれていた子宮平滑筋腫瘍の良悪性の鑑別はmitotically active leiomyomaが登場した,…などが好例で日常の学問的知識習得は欠かせないものである.

 これらにも増して,病理医の経験の多寡による診断の差異こそ我々が日常最も多く経験することであるが,単に経験の多寡として片づけられない問題も包含している.病理診断は細胞形態,組織構築,染色性などを指標に行われるが,これらの組織解釈基準こそ個々の病理医による診断の差が現れる最も大きな原因と考えられる.我々は過去に病理経験15年以上の第一線で働く認定病理医6名に6例の肺腺癌の野口分類をしてもらったことがある.その結果完全な一致をみたのは1例のみ,術式に違いをもたらす線維化の有無に関しては実に3例で不一致であった.不一致を生じた原因をこれらの病理医に記載してもらった分類根拠をもとに考察すると「線維化をどのようにとらえるか」という組織解釈において違いがあったことが原因であった.こういった組織解釈の差は個々の病理医の経験の差から生じることも勿論であるが,さらに個々の病理医が受けてきた教育や環境が大きく反映されると考えられる.従って組織解釈の基本的な部分は普遍性を持った知識で固める必要がある.

 われわれ病理医は扱う全ての病変に関して自身の診断に普遍性を求め続けねばならず,そのためには様々な手段で,他者,特にその病変の専門家と言われる病理医の組織解釈を参考にする努力は欠かせないものである.
 従来,病理診断の研修会等は主に稀少例や新しい診断基準・疾患概念に主眼がおかれていたが,obsever variationを乗り越えて病理診断の均てん化を目指すためには日常経験しやすい症例における診断の基本を十分に学ぶ必要があると考えられ,本研修会の企画となった.