第 65 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 18 区分 A. 難解・問題症例
部位/臓器 副腎,傍神経節 副腎
演題名 肺転移, 脳転移をきたした左腎上極腫瘍の一例
出題者および所属
秋田大学医学部 病理病態医学講座1),同 生殖発達医学講座 泌尿器科学分野2)
吉岡 年明1),西川 祐司1),大森 泰文1)
吉田 正行1),西村 拓哉1),東海林 琢男1)
熊澤 光明2),羽渕 友則2),榎本 克彦1)
症例の概要・問題点
症例 56歳男性.約5か月前に他院で右肺下葉に直径約3cmの肺腫瘍があるのを指摘された.その後の検査で,左腎上極付近に直径約7cmの嚢胞状腫瘍が認められ,左副腎原発腫瘍の肺転移が疑われた.明らかな内分泌症状はみられなかった.3か月前,秋田大学泌尿器科に紹介され,精査をしたところ,脳MRIで右上前頭回に直径約3cmの転移性腫瘍が認められた.痙攣発作が出現したため,脳腫瘍病変に対してX線ナイフ治療が行われた.1ヶ月前の腹部CTでは,左副腎腫瘍は直径約13cmまで増大していた.その後全身状態が悪化し死亡した.
剖検所見 左腎上極付近に,後腹膜にかけ,左腎,脾臓,胃後壁,横行結腸を巻き込む28cmx21cmx13.5cmの腫瘍が認められた.腫瘍の割面は灰白色で,壊死,出血を強くともなっていた.肺腫瘍も同様の肉眼像を呈していた.また両肺に高度の気管支肺炎が認められた.
配布標本 1)腎上極腫瘍,2)肺腫瘍

問題点 原発巣同定と病理組織診断
最終病理診断 Adrenocortical carcinoma, anaplastic type.
(CK(-), vimentin(+))

コメント 本例では,左腎上極付近に発生した腫瘍が,数か月の経過で急激に増大し, 剖検時には著明な網嚢進展および左腎浸潤を伴う巨大な病変を形成した.組織学的にはきわめて異型の強い,未分化な腫瘍で,免疫染色ではvimentin以外すべてのマーカーが陰性であった.副腎皮質,腎いずれからもこのような退形成性の腫瘍が発生しうるが,発見時および剖検時の腫瘍局在から腎原発とは考えにくく,左副腎原発のadrenocortical carcinoma, anaplastic typeと診断した.なお,腎癌ではsarcomatoid typeであってもケラチンの発現が多くの例で保たれることが報告されている.また,肺が原発巣である可能性も考慮したが,病変の主体は腹部腫瘍であること,肺動脈内に多数の腫瘍塞栓像が観察されたことから,肺病変は副腎癌の転移であると判定した.
画像1 画像2
[死亡5ヶ月前のCT画像] 腫瘍は左腎上極を中心として認められた. (A)脾門部レベル, (B) 左腎上極レベル. [剖検肉眼所見] 左腎上極付近から網嚢腔内にかけ,高度の壊死, 出血を伴う28x21x13cmの巨大な腫瘍が認められた.腫瘍は内側から左腎上部に浸潤している.赤枠の範囲の組織所見を図2に提示する. 腫瘍と左腎との関係.腎盂レベルのEM染色において, 腎被膜を黒矢印で,腎の腫瘍部分を黄矢印で示す.腫瘍は腎外から腎内に浸潤したものと考えられる.

画像3 画像4
[腹部腫瘍] 腫瘍細胞は異型の強い核と好酸性の胞体を持ち,全体にanaplasticな像を示している. 核内封入体 (赤矢印)やcannibalism (黒矢印), 細胞質内のヒアリン球状体 (黄矢印)が多数認められる. 細胞分裂像 (青矢印)も高頻度にみられる (高倍1視野当り1個程度). [肺腫瘍] 腹部腫瘍と同様の組織像である. 免疫染色.腫瘍細胞はvimentinのみ陽性で,keratin (AE1/AE3),CD10,inhibin-α,NSEは陰性であり,明らかな分化傾向を示さない.