第64回日本病理学会東北支部学術総会 座長総括 |
座長名:伊東 博司(奥羽大学歯学部口腔病理学教室) |
演題番号1
演者診断名:Infarcted Warthin's tumor
討議内容:76歳,男性の耳下腺腫瘍.凝固壊死に陥ったWarthin's tumor組織と見なしうる病理組織像を演者が供覧し,演者診断名に対する討議は行われなかった.鑑別診断として考慮すべき疾患として演者よりInflammatory pseudotumor等が提示された.
最終診断名:Infarcted Warthin's tumor
演題番号2
演者診断名:MALT lymphoma
討議内容:71歳,女性の両側耳下腺腫瘍.演者より,免疫染色結果として,腫瘍細胞はCD20(+++),CD79α(+++)とB細胞のマーカーが陽性であり,T細胞マーカーCD3(-),CD5(-)は陰性で,Ki67陽性率は50%であることが示された.演者診断名に対する討議はなされなかったが,両側の耳下腺に同時発生したMALT lymphomaの発生頻度について質問がなされ,演者は両側性の発生頻度は非常に低い旨を回答した.
最終診断名:B-cell lymphoma of MALT type
演題番号3
演者診断名:Myoepithelioma
討議内容:63歳,女性の耳下腺腫瘍.腫瘍性筋上皮細胞の特徴の一つである,vimentinとS100タンパクの同時発現を腫瘍細胞の大多数が示していること,および,腫瘍細胞のKi67陽性率が4%であることが演者より提示され,演者診断名についての討議はなかった.腫瘍性筋上皮細胞に特異的なサイトケラチンの有無について質問がなされ,演者が座長に回答を依頼したので,座長が,文献ではサイトケラチン14が腫瘍性筋上皮細胞において高頻度で陽性を示すと記載されていると述べた.
最終診断名: Myoepithelioma
演題番号4
演者診断名:Oral-stings of sperma bag of the squid (イカ精莢膜刺入症)
討議内容:40歳代,男性の口腔内異物.摘出された異物の内部に多数の精子が見いだされることが演者により示された.加えて,演者よりイカ精莢についての詳細な説明があった.演者診断名に対する討議はなかったが,配布画像で見いだされる重層扁平上皮組織はイカ精莢を摘出した際に精莢に付着して剥離したものかとの質問があり,演者は精莢膜が重層扁平上皮と強固に付着するために,精莢摘出時に重層扁平上皮が剥離したと回答した.また,集会出席者の一人から,自身が経験した同一病変についての説明が追加発言としてなされた.
最終診断名:Oral-stings of sperma bag of the squid
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座長名:東海林琢男 (中通総合病院 病理部) |
演題番号5
演者診断名:甲状腺低分化癌の頭蓋転移 討議内容: 本症例はHE染色で原発部と組織型の確定が困難であり,多種類の特殊染色と免疫染色で検討された.その結果,PAS, d-PAS, Grimelius, Congo red染色に陰性.CK(AE1/AE3), CK7, thyroglobulin,TTF-1に陽性.EMA, CK20, CD10, calcitonin, chromogranin A, synaptophysinに陰性であった.以上の染色結果と形態から,最終的に演者は,甲状腺低分化癌の頭蓋転移と診断した.アンケート結果では,甲状腺低分化癌は挙げられていなかったが,異議はなかった. 最終診断:甲状腺低分化癌の頭蓋転移 演題番号6
演者診断名:Desmoplastic melanoma 討議内容: Desmoplastic melanoma, MPNST, DFSPなどが鑑別に挙げられた.免疫染色で腫瘍細胞は,S-100とvimentinに陽性で,CD34, CD68, SMA, CAM5.2, EMAには陰性を示した.HEと免疫染色の所見から演者はdesmoplastic melanomaと診断した.腫瘍組織内にリンパ球/形質細胞の浸潤を伴うというdesmoplastic melanomaを支持する所見も確認されており,また,フロアから本症例は腫瘍細胞の密度が疎でdesmoplastic changeが強いのでMPNSTは否定的との意見もあり,演者診断以外の診断を支持する意見はなかった.In situの病変が確認されておらず,また,Melan-AとHMB45に陰性であるがmelanomaと確定診断してよいかとの質問に対して,演者は,HEの組織所見を最大の根拠として診断したと回答した. 最終診断:Desmoplastic melanoma 演題番号7
演者診断名:横紋筋肉腫, 胞巣型 討議内容: 形態的に,小細胞癌と横紋筋肉腫との鑑別が問題となった.免疫組織化学的に,MyoD1, desmin, HHF-35に陽性であり,また,透過電顕で,Z-bandが確認され,演者は横紋筋肉腫, 胞巣型と診断した.診断名への異議はなかった.NCAMにも陽性を示したことに関して,フロアから,NCAM陽性の横紋筋肉腫が稀であるが存在するとのコメントがあった.
最終診断:横紋筋肉腫, 胞巣型
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座長名:和田龍一 (弘前大学医学部病理学第一講座) |
演題番号8
演者診断:Multifocal stenosing ulcers with proliferation of smooth muscle cells. 討議内容:演者から,潰瘍底における線維芽細胞の増生と,血管平滑筋の増生が示された.これに対して,このような線維芽細胞や平滑筋の増殖が潰瘍発生の原因となる変化であるのか,二次的な変化であるのかとの質問がなされたが,現在のところはっきりしないとの回答がなされた.また,増殖している細胞の種類について,検討が必要との意見も出された.このような病態を示す症例はきわめてまれで,気づかれずにいる可能性もある.このような症例を今後検討していく必要性があるとの意見が出された. 最終診断:Multifocal stenosing ulcers, further study required 演題番号9 小腸T細胞リンパ腫の1例
演者診断:Enteropathy-type T cell lymphoma 討議内容:小腸の固有層には広くリンパ球が浸潤し,回腸末端で大きな腫瘤を形成していた.免疫組織学的には,これらの細胞はCD3+, CD20-, CD79a-, CD56-, CD4-, CD8-, TIA+のT cellであった.演者はenteropathy-type T cell lymphomaと診断した.これに対して,術前に診断が可能かどうか質問がなされた.本症例では術前に生検診断はなされていないが,sIL2Rが高値であること,また回腸末端の腫瘍性病変としては,悪性リンパ腫が最も考えやすいとの回答がなされた.さらに,通常この悪性リンパ腫はperforationで発症することが多く,術前診断がなされる機会が少ないとの追加発言がなされた. 最終診断:Enteropathy-type T cell lymphoma 演題番号10 腸管多発潰瘍の1例
演者診断:Mesenteric inflammatory veno-occlusive disease (MIVOD) 討議内容:演者より,摘出した腸管ではul-IIまたはIIIの潰瘍形成を認め,腸間膜では潰瘍の形成にかかわらず,また腸間膜の根部においても小静脈のlymphocytic phlebitisが観察されることが示され,MIVODとの診断がなされた.これに対して,腸管粘膜は虚血性の変化なのか,何らかの特異的な所見から術前に診断が可能か,またどのような所見が特徴的なのか質問がなされた.腸管粘膜自体は虚血の変化であり,術前の診断は難しい.摘出された腸管および腸間膜において,特徴的なlymphocytic phlebitisに注意を払う必要があると説明がなされた.
最終診断:Mesenteric inflammatory veno-occlusive disease (MIVOD)
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座長名:西倉 健(新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子・病態病理学分野) |
演題番号11
演者診断名: Basaloid carcinoma of the anal canal with mural metastasis 討議内容: 肛門管では解剖学的特徴から,squamous cell carcinomaであっても上皮下進展しやすい.また組織型はSquamous cell carcinomaで良いのではないか. 生検診断がつかなかったことに関して.組織が硬く十分な粘膜下組織が採取できなかったため. 最終診断名: Squamous cell carcinoma of the anal canal with mural metastasis. 演題番号12
演者診断名: Carcinoid tumor (Somatostatinoma) associated with Neurofibromatosis
type I 討議内容: Carcinoidの名称について.WHO分類ではSomatostatin cell tumourに分類されNeurofibromatosis type I (von Recklinghausen disease)に合併しやすいことが明記されている. 腫瘍進展について.乳頭部から膵臓へも同様に浸潤していた. 通常のCarcinoidと,全身疾患に伴う場合とでは生物学的悪性度に差異があるか.十二指腸ではGastrin産生Carcinoidも多くみられる.また一般に吻合索状の胞巣形態を呈し,psammoma bodiesは伴わない. 他の内分泌臓器の異常について.褐色細胞腫を含めて他の内分泌器官の異常は認めなかった. 最終診断名: Somatostatin cell tumour associated with Neurofibromatosis type I 演題番号13
演者診断名: Bronchial ciliated metaplasia 討議内容: 化生とした場合に病変内部の線維化はどのように形成されたのか.針生検の有無について.極小病変であり当初から部分切除が行われ,生検による線維化ではない. 画像所見について.胸膜陥入像などは認めなかった. 迅速標本での評価について.迅速標本ではciliaの確認は不可能であり,Noguchi's type B or Cの癌と診断せざるを得ない. 病変中心部と周辺部での異型の相違について.化生の範疇での変化と思われる.
最終診断名: Bronchial ciliated metaplasia
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座長名:上杉憲幸 (岩手医科大学臨床病理) |
演題番号14
演者診断名:Cystadenocarcinoma of the liver 討議内容: 本腫瘍の細胞形態から肝細胞由来の可能性について質疑されたが,サイトケラチンのサブタイプは胆管上皮由来であることを支持しており,胆管原発の腺癌であるとみなされた.サイトケラチンの検討に関して,低分子サイトケラチン (CMA5.2) とサイトケラチン 7 あるいは 20 の両者を施行することの意義が質問されたが,鑑別診断上のステップとして必要性であることが示唆された. 最終診断:Cystadenocarcinoma of the liver 演題番号15
演者診断名: Adenoendocrine cell carcinoma, bile duct 討議内容: 胆汁細胞診の成分は内分泌細胞由来とみても矛盾しないとの意見が出た.転移先の組織像も内分泌細胞癌の像であることが確認された.本腫瘍の組織発生について,幹細胞からおのおのの成分が発生した可能性が示唆されたが,腺癌が内分泌細胞への分化をした腫瘍との鑑別が困難であり,推測の域を出ない感があった.同様に terminology の問題として,adenocarcinoma with neuroendocrine differntiation あるいは combined adenocarcinoma and small cell carcinoma との使い分けが不明瞭であるが,取り扱い規約に準じて adenoendocrine cell carcinoma とすることに異論は出なかった. 最終診断:Adenoendocrine cell carcinoma, bile duct 演題番号16
演者診断名: Osteoclastic GCT associated with mucinous adenocarcinoma 討議内容: Giant cell tumor に膵癌が合併することがあり,本症例もそれに類する腫瘍と考えられた.癌組織間質に卵巣様間質の有無が質問された.本腫瘍においては,免疫組織学的,遺伝子学的に GCT との adenocarcinoma の両者は発生母細胞が同一であることが示唆されたが,GCT の成分は腺癌の浸潤に対する反応性変化である可能性も否定はできず,この点については明確な結論が得られなかった.
最終診断:Osteoclastic GCT associated with mucinous adenocarcinoma
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座長名:田村 元(山形県立中央病院中央検査部病理) |
演題番号17
演題診断名: Splenic hamartoma 討議内容: hamartoma と hemangiomaのいずれにするか議論されたが,capillaryの増生はhamartomaとしての範囲内で理解されるものとした. 最終診断名: Splenic hamartoma 演題番号18
演題診断名: Juvenile xanthogranuloma 討議内容: CMVは切片上には確認されず,CMV-inducedであるかどうかの確定はできなかった.本症例のようにsystemicに発症した場合でも,典型例であれば皮膚生検のみで診断可能と考えられた. 最終診断名: Juvenile xanthogranuloma 演題番号19
演者診断名: Fibromuscular dysplasia, intimal fibroplasia 討議内容 : Fibromuscular dysplasia, intimal fibroplasiaの典型例.同心円状の未熟な血管様構造が認められ,本症の病理発生を考えるうえで貴重な所見と考えられた.
最終診断名: Fibromuscular dysplasia, intimal fibroplasia
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座長名:池田 健 (函館五稜郭病院パソロジーセンター) |
演題番号20
演者診断名: syringomatous adenoma of the nipple 討議内容: Microcystic adrexal carcinomaとの鑑別が討議された.演者は2相性の有無で鑑別可能とし,これに関してフロアから異議はなかった. いわゆるnipple adenomaには本症例と類似した亜型が知られるが,上皮増生がより高度である. また,細胞診の新報告様式を有効利用すべきというコメントがあった. 最終診断名: syringomatous adenoma of the nipple 演題番号21
演者診断名:Large cell neuroendocrine carcinoma(LCNEC) 討議内容: 本症例は免疫組織化学でNCAM陽性であった.肺大細胞神経内分泌癌と同様に,クロモグラニンA,シナプトフィジンおよびNCAMのうちいずれかの陽性所見をもってLCNECと考えてよいのではないかという演者に対し,NCAMの特異性や核所見の面からいくつかの異議があった.今後の症例の蓄積を待つという結論で,LCNECに替わる別の診断名は提示されなかった. 最終診断名 : Large cell neuroendocrine carcinoma 演題番号22
演者診断名:Primitive neuroectodermal tumor (PNET) 討議内容: 免疫組織化学的にCD99(MIC2)陽性のsmall round cell tumorである.2色分離プローブを用いたFISH法により,22番染色体の切断が確認され,EWSを含む相互転座の存在が強く示唆された. NCAM陽性など神経への分化傾向を重視して,骨外性ユーイング肉腫ではなくPNETとされた. PNETとしては高齢発症であることに,p53蛋白の異常が関与しているのでは,というコメントがあった.
最終診断名: Primitive neuroectodermal tumor
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座長名:三橋 智子(東北大学大学院医学系研究科病理形態学分野) |
演題番号23
演者診断名:Endometrioid adenocarcinoma with germ cell tumors 討議内容:演者は発表時,血中のAFP, hCG, CA19-9, CEAが上昇していることを示し,免疫組織学的にyolk sac tumor様のendodermal sinus patternを示す部分にAFP陽性,choriocarcinoma様の部分にhCG陽性,また部分的にembryonal carcinoma様の構築も認められたことから,上記診断としている.上記免疫染色の染色性については形態に一致してしっかりと認められたとコメントしている.CD30, c-kitは施行していない.XY染色体は未検査.子宮内膜癌(endometrioid adenocarcinoma)から分化(転化)した可能性が示唆されたが,germ cell tumorの起源についての検索が不十分であったことから,結論に至らなかった.また,内膜細胞診で陰性であったのは,under diagnosisであった可能性が指摘された. 最終診断名:保留(endometrioid adenocarcinomaで同組織から分化,転化したgerm cell tumorの成分を有する腫瘍である可能性)
演題番号24
演者診断名:Micropapillary carcinoma of the urinary bladder 討議内容:診断について異論はなかったが,表層の尿路上皮癌とそれに続く腺癌様の部分と,間質に広範に浸潤性発育を示す微小乳頭癌への移行性,ならびに微小乳頭癌の発生起源(尿路上皮癌か腺癌か?)が問題となった.免疫染色で,通常型尿路上皮癌の部分と微小乳頭癌の部分でp63とCEAの不一致をみた.文献的にはこれらが共有してみられるという報告もある.演者は微小乳頭癌が腺癌由来と考えるも,断定はできなかった.文献的には尿路上皮癌から派生したという報告もある.尿細胞診では,(間質に浸潤性発育している微小乳頭癌が出てくることは稀で)診断困難なことが多いが,膀胱鏡では粘膜下に浸潤している部分が通常の尿路上皮癌と異なってみえるとされている, 最終診断名:Micropapillary carcinoma of the urinary bladder (with urothelial carcinoma, UC>AC)
演題番号25
演者診断名:Leiomyosarcoma 討議内容:形態学的にhemangiopericytomatous patternを取る部分が印象的であったためか,投票ではsolitary fibrous tumorやhemangiopericytomaといった意見が多かったが,免疫染色で平滑筋系マーカー(αSMA, h-caldesmon, HHF-35)が陽性であったことからleiomyosarcomaとしてよい症例と考えられた.渡銀染色でboxing patternを示し,細胞異型,豊富な核分裂像,下大静脈での浸潤(腫瘍塞栓)も上記を支持する所見である.しかしdesminが陰性であったことはunusualで,問題として残された,周囲に脂肪織を示唆する組織はなく,脱分化型脂肪肉腫は否定的であった.演者は結論として,後腹膜原発のleiomyosarcomaで下大静脈に浸潤したものと考え,フロアーからも反対意見はなかった.
最終診断名:Leiomyosarcoma
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