第 64 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 21 区分 B. 典型的・教育的・その他の症例
部位/臓器 乳腺
演題名 術後8ヶ月で巨大肝転移を来し,急速な転帰をとった乳腺腫瘍の1例
出題者および所属
勝嶌 浩紀1),豊島 隆2),丹田 滋3),木村 伯子4)
1) 東北大学医学部5年生,2) 独立行政法人労働者健康福祉機構 東北労災病院 乳腺外科,3) 同 腫瘍内科,4) 同 病理・検査科
症例の概要・問題点
症例 33歳 女性
家族歴 特記事項なし
既往歴 特記事項なし
臨床経過 第3子妊娠7週時に左乳腺に腫瘤を触知し,近医受診.生検で乳癌(充実腺管癌)と診断され,同時に腋窩リンパ節も触知された.2週間後(第9週時)妊娠中絶.その3ヶ月後に当院外科にて左乳房切除術施行.腫瘍の大きさ:45x45mm.組織学的異型度(Nottingham Modification of Bloom-Richardson System)III(構造異型3,核異型3,核分裂像3), 免疫染色の結果はER0(0+0),PgR5(3+2)(Allred score),HER-2(-), Ki67 50%, podoplaninによるリンパ管侵入-,リンパ節転移Level I: 2/9, level II:0/4,R:0/0であった.術後,外科にて化学療法(CEF:シクロフォスファミド,エピルビシン,5FU 6コース)のあと内分泌療法(タモキシフェン内服)を施行した.乳房切除8ヶ月後に上腹部痛を自覚し,検査の結果,肝両葉に多発腫瘍および肝門部のリンパ節腫大を認められた.腫瘍内科にてドセタキセル,ビノレルビンを逐次投与されたものの,肝転移増悪し,発症からの全経過13ヶ月で永眠された.
剖検 乳腺部に腫瘍の残存や再発なし.肝臓(重量5160g):全体に多発転移巣が認められた.肺(左200g, 右230g):組織学的に腫瘍塞栓が多数みられた.リンパ節:胃,膵臓,大動脈周囲に転移が数個確認された.
配布標本 乳癌手術時切除標本の一部

問題点 病理組織学的診断
最終病理診断 Large cell neuroendocrine carcinoma

演者診断
及びコメント
本症例は,通常の乳管癌にしてはあまりにも予後が悪く,腫瘍の転移が激しすぎるという印象がある.広範な壊死,核分裂像が60個/10HPFと非常に多く,毛細血管が豊富な充実性胞巣状増殖,毛細血管と細胞との間に存在する空隙,神経内分泌マーカー(NCAM)陽性といった特徴から,Large cell neuroendocrine carcinoma (LCNEC)と考えた.乳癌のLCNECの報告例は乏しいが,今後症例を重ねて臨床病理学的な検討をする必要がある.
画像1 画像2
手術で切除した乳腺の標本.癌細胞が充実性胞巣構造を示し,間質反応に乏しく毛細血管が豊富である. 手術で切除した乳腺の標本.広い範囲に壊死巣が見られる.

画像3 画像4
手術で切除した乳腺の標本.毛細血管が癌胞巣の間に介在している.毛細血管と細胞の間に空隙が存在し,基底膜が剥離している所見である.細胞が大きく,核小体も目立ち,核分裂像も非常に多い. 手術で切除した乳腺の標本.神経内分泌のマーカーの1つであるNCAM(neural cell adhesion molecule)が陽性である.