第 64 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 19 区分 B. 典型的・教育的・その他の症例
部位/臓器 泌尿器 腎
演題名 出血性ショックをきたした乳児腎病変の1例
出題者および所属
田・?和洋, 北條 洋, 阿部 正文
福島県立医科大学医学部病理学第一講座
症例の概要・問題点
症例 9か月 男児
既往歴・家族歴 特記すべきことなし
現病歴 2006年9月,急に力むような仕草があり,その後激しく泣き出し顔面蒼白となる.血尿もあり,腎出血性ショックの疑いで救急搬送された.入院時腹部CTにて右腎腫瘍(Wilms腫瘍)と同部からの出血が疑われ,緊急右腎摘出術が施行された.
 術直後より高血圧性けいれん発作が出現(170-180/100-110mmHg)し,術前の血漿レニン活性(PRA:290ng/ml/hr >2.0),レニン濃度(1300pg/ml >10-30),アルドステロン値(306pg/ml >130)はいずれも高値を示した.
 降圧剤の持続静注・経口投与にて症状は改善し,片腎機能も保たれていることから術後37日に退院.以後,外来にて経過観察中である.
手術所見 右腎周囲に巨大な血腫を認めた.血腫を含めた右腎の大きさは75×55×50mm,重量140g.腎門部にて右腎動脈は太く蛇行し三叉に分かれていた.外傷や腎腫瘍の所見は認められなかった.
術後血管造影所見 対側の左腎動脈に念珠様病変(狭窄と拡張),右総腸骨動脈から内腸骨動脈に動脈瘤が認められた.冠動脈・腹腔動脈・腸間膜動脈に異常血管はない.
配布標本 摘出された右腎組織の一部

問題点 病理組織診断
最終病理診断 Fibromuscular dysplasia, intimal fibroplasia

演者診断 Fibromuscular dysplasia, intimal fibroplasia subtype.
腎動脈には内膜の強い線維増殖や中膜の消失・内腔の狭窄と新旧血栓の形成が認められた.臨床的に腎血管性高血圧症と血管造影のString of beads signがみられたことと合わせて,線維筋性異形成(内膜線維増殖型)と診断した.本例では未熟な腎組織の中に未分化な紡錘形細胞からなるマリモ様構造がみられ,CD31・ -SMA等の染色性から血管の初期発生過程を模倣していることが示唆された.1歳未満の発症例は稀であり文献による報告例と合わせて提示した.
画像1 画像2
摘出された右腎の割面.出血と被膜下の血腫形成をみる.腎門部・腎実質内に異常血管が走行し,内腔の拡張と血栓の形成を伴う. 腎外中型動脈のElastica Masson染色.内膜に強い線維増殖(左)と,中膜弾性線維の消失・線維化をみる(右).

画像3
未分化な紡錘形細胞からなるマリモ様構造と,これに隣接する血管様組織(左).微小な管腔構造はCD31陽性を示す(右).