第 64 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 10 区分 A. 難解・問題症例
部位/臓器 消化管 小腸
演題名 腸管多発潰瘍の一例
出題者および所属
山形大学医学部病理病態学分野1), 山形県立新庄病院外科2)
岩場 晶子1),前田 邦彦1),加藤 智也1)
大竹 浩也1),山川 光徳1),矢野 充泰2)
松本 秀一2)
症例の概要・問題点
症例 77歳男性.身長156cm, 体重50kg
主訴 下痢
既往歴 高血圧症,鉄欠乏性貧血で内服治療中.17年前に食道癌で手術.
現病歴 約2ヶ月半前,下痢による脱水症のため入院した.小腸と下行結腸に多発する狭窄をみとめ,内視鏡検査では直腸にびらんと偽膜をみとめた.便培養検査では病原性大腸菌O-1が検出されたが,MRSAやクロストリジウムは検出されなかった.小腸部分切除およびS状結腸切除手術が行われた.
肉眼所見 小腸,S状結腸いずれも輪状の浅い潰瘍が多発しており,軽度から高度の狭窄をきたしていた.潰瘍の周囲では浮腫とうっ血がみられた.漿膜面には色調の変化はみられなかった.
配布標本 (1)小腸潰瘍部 (2)小腸腸間膜

問題点 病理診断
最終病理診断 Mesenteric inflammatory veno-occlusive disease (MIVOD)

コメント 本症例は小腸およびS状結腸に多発性の潰瘍と狭窄を呈した.手術材料の精査によりmesenteric inflammatory venoocclusive disease (MIVOD)と考えられた.腸間膜の小型の静脈に,形質細胞とTリンパ球主体の炎症細胞浸潤と,内腔の狭窄・閉塞がみられた.動脈や大型の静脈には変化はみられなかった.MIVODは稀ではあるが腸管虚血性病変の原因として考慮すべき疾患のひとつとされている.
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小腸切除標本.輪状潰瘍と狭窄が多発していた. 小腸にUl-?から?の潰瘍がみられ,粘膜下層は浮腫と線維化により肥厚していた.

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腸間膜の小型の静脈の周囲に炎症細胞浸潤がみられ,内腔は閉塞していた. 腸間膜の根部でも静脈周囲の炎症細胞浸潤と内腔の狭窄がみられた.