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第63回日本病理学会東北支部学術総会 座長総括 |
座長:若木 邦彦(新潟県立新発田病院 病理検査科) |
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演題番号1
最終診断:Gangliocytoma
討議内容:
投票結果ではdysembryonic neuroepithelial tumor 2, astrocytoma 2, subependymal giant cell astrocytoma 1, central neurocytoma with diverse differentiation 1, oligodendroglioma 1, ganglioglioma 1と分かれた。免疫染色ではneurofilament, synaptophysin,GFAP,NSE,neuro N,NCAMが陽性で、形態的にもganglion cellやneurocytomaの所見を認めること、文献的にもcentral neurocytomaの中に同様な症例を認める事から最終的にgangliocytomaと診断され、異論は出なかった。
演題番号2
最終診断:Myopericytoma with myxoid differentiation
討議内容:
投票結果ではgranuloma pyogenicum 1, hemangioendothelioma 1, hemangima 1, sclerosing hemangioma 1, angiofibroma 1, angiosarcoma 1, rhabdomyosarcoma 1と分かれた。免疫染色ではvimentin,α-SMA,h-caldesmonが陽性で、myopericytoma with myxoid differentiation,low grade と診断されたが、形態的には一致せず、形態的にはnasopharyngeal angiofibromaやinflammatory myofibroblastic tumor, 特に前者が考えられると思われるが最終診断は保留となった。
演題番号3
最終診断:Adenoid cystic carcinoma
討議内容:
投票結果ではadenoid cystic carcinoma 8, malignant ameloblastoma 1であった。標本上典型的なadenoid cystic carcinomaの像に混じって、polymorphous low-grade adenocarcinoma 様の像が見られ、初回生検時に後者と診断したとの事であった。前者と後者の鑑別にはcalponinが有用で、最終診断はadenoid cystic carcinoma となった。
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座長:本間 慶一(新潟県立がんセンター 病理部) |
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演題番号4
演者診断:Cavernous hemangioma in nonfunctioning adenoma of the adrenal cortex
最終診断:Cortical adenoma + α(出血性病変の最終的結論は出なかった)
討議内容:
63歳女性の副腎腫瘍。肉眼的にも組織学的にも境界明瞭な副腎皮質腫瘍を認めた。臨床的にはnon-funcitionで、組織像では血管浸潤が否かが議論となったが、悪性と判断できる所見なしということでcortical adenomaとの結論となった。問題はadenoma内に存在する出血性病変である。演者は辺縁部にある血管所見と併せcavernous hemangiomaとして提示した。座長は演者が説明した辺縁部の血管所見を血管破綻の初期像ととらえ、出血性病変は腺腫内出血とその後の内皮細胞の進展と考え、出血病巣内にはmacrphageだけでなく微量の皮質腺腫細胞が存在するのではと指摘したが、演者はすべてをはmacrphageと考えるとのことであった。残念ながらこの点に関する付議はなく、出血性病変の最終的結論は出なかった。アンケートはhemangioma+adenomaないしpheochromoctyoma+adenomaとするものが多かった。
演題番号5
演者診断:Cribriform-morular variant of papillary thyroid carcinoma
最終診断:Cribriform-morular variant of papillary thyroid carcinoma
討議内容:
16歳女性の甲状腺腫瘍で、壊死性の腫瘍で辺縁部に癒合腺管状のviableな腫瘍組織が少量みられた。腫瘍細胞に清明核や稀には核内封入体・核溝が存在すること、壊死部でもghostが乳頭状にみえることから、papillary carcinomaの判断は可能と思われた。加えて本例は家族性大腸ポリポーシス(FAP)の家族歴があり、患者本人にも胃・大腸にポリポーシスがあることが明らかにされ、本例はFAP関連で特異な組織像を呈する甲状腺乳頭癌と結論された。本例はβ-cateninが特徴的に陽性となる。
アンケートではmedullary ca.が多かったが、病歴にFAPの家族歴やポリポーシスの記載がなかったこと、腫瘍の多くは壊死でmoruleもはっきりしない症例であったので、乳頭癌と思い至らなければmedullary caを鑑別に挙げることも無理ないことと思われた。
演題番号6
演者診断:甲状腺pleomorphic tumor
最終診断:Spindle-pleomorhic cell tumor of the thyroid
討議内容:
69歳女性の甲状腺腫瘍。7年前から甲状腺腫の指摘あり、増大傾向ありとのこと。組織学的には紡錘形から多形性の腫瘍細胞が特定の配列を示さず肉腫様に増生するいわゆるpleomorphic tumorであった。anaplastic ca., metastatic ca., pleomorphic sarcomaなどが鑑別に挙がる。演者はEMA, CAM5.2, AE1/3, CK7, CK20, TTF-1, Tgがすべて陰性で、α1?ACT(+), CD68(+)、stroriform様配列からMFHを否定できないとしてした。アンケートではanaplastic ca.が多く、MHFあるいはsarcomaとした回答は少数であった。7年前から腫瘤を指摘されており、乳頭癌や濾胞癌を背景としたanaplastic ca.の可能性は否定できないと思われたが、組織学的な確認が得られないため診断確定には至らなかった。
Floorからはfollicular dendritic cell tumorの可能性も示唆されたが、この点に関してはCD21, CD23, CD35などによる追加検討が必要である。
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座長:渡邉 一男(福島県立医科大学附属病院 病理部) |
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演題番号7
演者診断名:脱分化型脂肪肉腫
最終診断:高悪性度軟部肉腫(脱分化型脂肪肉腫の疑い)
討議内容:
演者は横紋筋肉腫、悪性孤立性線維性腫瘍、びまん性巨細胞腫(悪性型)、脱分化型脂肪肉腫を鑑別にあげた。前3者については、一部には類似する所見をみるが、本腫瘍にみられた良性から高悪性までの多彩な組織像を説明することができず、最終的に最も可能性の高い腫瘍として脱分化型脂肪肉腫が残った。しかし、多数標本による観察にても分化型脂肪肉腫の成分は認められず、確定診断には至っていない。なお、アンケートで、投票数の多かった、びまん性中皮腫は、限局性の病変であることや免疫組織の結果より否定的と考えられた。
演題番号8
演者診断名:複合型胚細胞腫瘍に発生した横紋筋肉腫
最終診断:複合型胚細胞腫瘍に発生した横紋筋肉腫
討議内容:
未熟奇形腫と胎児性癌から成る複合型胚細胞腫瘍で、その中に認められた円形細胞腫瘍の性格が問題となった。演者の検討で、円形細胞はDesmin, MyoD1, Myogenin陽性であり、横紋筋肉腫への悪性転化であることが示された。診断に関して会場から特に異論はなかったが、鑑別として胚細胞腫瘍に合併する円形細胞腫瘍の鑑別としてgranulocytic sarcomaも考慮する必要がある旨のコメントがあった。
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座長:関谷 政雄(新潟県立中央病院 病理検査科) |
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演題番号9
演者診断名:悪性黒色腫
最終診断:悪性黒色腫(肺原発)
討議内容:
一部の腫瘍細胞が有する色素はメラニン.腫瘍から離れた気管支上皮内等に非腫瘍性異所性メラノサイトが存在.悪性黒色腫の既往歴無く,また体表等にこれを疑う病変も無い.細胞診は陽性であり,再検討で一部の細胞に色素を認め悪性黒色が考えられた.腫瘍の肉眼的黄色調部は壊死.
演題番号10
演者診断名:大細胞神経内分泌癌
最終診断:大細胞神経内分泌癌
討議内容:
免疫染色等による腫瘍細胞の形質は全て神経内分泌性で矛盾せず,腫瘍内に小細胞癌と診断すべき部位は無い.小細胞癌と大細胞神経内分泌癌の鑑別は,肺癌取扱い規約に示されているように,一般的に前者の腫瘍細胞の大きさが小リンパ球3個未満.
演題番号11
演者診断名:Pulmonary capillary hemangiomatosis
最終診断:従来の capillary pulmonary hemangiomatosis の亜型:先天性/乳児型として妥当か,或いは新たな疾患概念とできるか再検討をお願いしたい.
討議内容:
拡張した血管・リンパ管が気管支壁,動静脈周囲,小葉中隔など肺胞中隔以外の間質,胸膜,肺門部・縦隔のリンパ節にあり,従来の成人症例のpulmonary capillary hemangiomatosis とは異なる分布である.但し,これらの拡張脈管は肝などの多臓器には無い.
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座長:加藤 哲子(山形大 人体病理病態学) |
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演題番号12
演者診断名:Rosai-Dorfman病
最終診断名:Rosai-Dorfman病
討議内容:
婦人科領域では子宮頚部へのinvolvementが知られているが、卵巣での報告は見出せない。配付標本(卵巣)の組織像は線維化が著明で典型像とはいいがたいが、いっしょに切除された卵管の周囲組織には典型的な病巣が分布していた。Rosai-Dorfman病の原因については感染説、腫瘍説などいろいろあるが、いまだ不明な点が多く、また、今回のように著しい線維化をきたすメカニズムも不明である。
演題番号13
演者診断名:Small cell carcinoma, hypercalcemic type
最終診断:Small cell carcinoma, hypercalcemic type
討議内容:
電顕で神経内分泌顆粒を確認できなかったが、卵巣のSmall cell carcinomaの診断はあくまでもH.E.形態にもとづくものなので、顆粒の有無は診断には影響しない。高カルシウム血症を惹起したのはおそらくは腫瘍細胞から産生分泌されたPTHrPであると考えられるが、血清レベルでの上昇は確認できたものの、免疫染色では残念ながら確証が得られなかった。
演題番号14
演者診断名:Mucinous adenoma and carcinoid
最終診断名:Mucinous adenoma and carcinoid
討議内容:
CarcinoidとSertoli cell tumorは類似の像を示しうるので両者の鑑別を念頭におくことが大切である。なお、mucinous adenomaとcarcinoidの合併は少なくはないが、両者の境界が明瞭であったこと、前者には内分泌マーカーが検出されなかったこと、などからmucinous adenomaがcarcinoidの発生母地であった可能性は否定的である。
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座長:渋谷 宏行(新潟市民病院 病理科) |
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演題番号15
演者診断名:Metastatic adenocarcinoma of the ovary (rectal adenocarcinoma origin)
討議内容:
左卵巣腫瘍が原発なのか、直腸癌(RS部)の卵巣転移なのか、H-E標本で鑑別がつかない場合、どうやって鑑別するかが問題点。演者は、免疫染色とサテライト解析を行って鑑別した。CK7とCK20およびMUC2、MUC5AC、MUC6の染め分け、CDX-2の免疫染色を行った。その結果、卵巣癌は直腸癌の転移であると診断された。LOHの結果もそれを示唆した。なお、CDX-2は両者に染色され有用ではなかった。
演題番号16
演者診断名:Intravascular large B-cell lymphoma (Asian variant)
討議内容:
古典的な Intravascular large B-cell lymphoma (IVL) ではなく、1997年にMurase らが提唱したAsian variant の IVL (Br J Haematol 2000:11:826-834) の症例呈示。古典的IVLと異なり中枢神経、皮膚を侵すことは稀で、血球貪食を来すのが特徴。骨髄 (一部)、リンパ節が侵されていた。免疫染色上はB cell marker が陽性。卵巣をはじめとする骨盤内臓器に広範な血栓形成があり、TTP類似の病態を呈したと考えられた。
演題番号17
演者診断名:Adenomyoepithelioma
討議内容:
診断名自体に異議を唱える病理医はいなかった。好酸性の強い紡錘形細胞は、免疫染色上Smooth muscle actin陽性。増殖している腺管上皮、筋上皮ともMIB-1陽性率は4%と増殖能は低かった。フロアからは、筋上皮は通常明るい細胞質だが、このように好酸性の胞体を持ち、明らかに平滑筋への分化を示すことは珍しいという意見が出された。
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座長:梅津 哉(新潟大学医歯学総合病院 病理部) |
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演題番号18
演者診断名:Synovial sarcoma
最終診断:Synovial sarcoma
討議内容:
右膝外側部軟部腫瘍の症例で,演者診断,最多アンケートともに synovial sarcoma であり,組織診断は.演者からは免疫染色で,AE1/AE3, bcl-2, CD99, CD56 が陽性で,RT-PCR では SY-SSX2 が確認されたことが報告された.また,演者からは RUNX2, SOX9 についての追加報告がなされた.
演題番号19
演者診断名:Chondrosarcoma
最終診断:Chondrosarcoma
討議内容:
右母趾軟骨性腫瘍の一例で,組織学的に良悪性の鑑別が困難な症例であった.アンケート結果は chondrosarcoma が5票,chondroma が3票であった.骨軟部腫瘍は臨床医との連携が重要である事が再認識された.また,フロアからは軟骨基質が通常の chondroma とは異なっているとの指摘があった.
演題番号20
演者診断名:Ossfying fibromyxoid tumor
最終診断:Ossfying fibromyxoid tumor
討議内容:
再発を繰り返した前腕軟部腫瘍の症例.アンケートでは様々なタイプの肉腫に投票があり,診断が困難な症例であった.今回の標本は再発を繰り返してきた後であり,典型的な ossfying fibromyxoid tumor とはやや異なる印象を受けた.初発時,あるいは何回かの再発時の典型的部分の提示をしていただきたかった.
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座長:岩渕 三哉(新潟大学医学部保健学科 臨床生体情報学講座) |
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演題番号21
演者診断名:嚢胞性膵芽腫
最終診断:嚢胞性膵芽腫
討議内容:
新生児の血性内容液を容れた膵嚢胞性腫瘤。演者は、嚢胞壁が膵菅上皮細胞と膵腺房細胞への分化を示す細胞からなることを示し、膵芽腫と診断した。診断名への異議はなかった。嚢胞化の機序について、出産時の外傷による影響などが討議された。
演題番号22
演者診断名:Carcinoid (well differentiated endocrine tumor)
最終診断:Carcinoid (well differentiated endocrine tumor)
討議内容:
本腫瘍は副乳頭部膵管に関連して発生したと考えられた。胆道癌と膵癌のいずれの取扱い規約に準拠して診断するのかに関連して、下記のような腫瘍分類の不統一が明らかになった。本腫瘍は、細胞異型度から、本邦の消化管・胆道腫瘍の診断基準では「carcinoid」、WHO消化器腫瘍分類ではcarcinoid (well diff endocrine tumor (neoplasm))と診断される。しかし、WHO膵内分泌腫瘍分類(膵癌取扱い規約も準拠)に拠れば、本腫瘍は「well differentiated endocrine tumor」の細胞異型度に相当するが、転移(+)のために「well differentiated endocrine carcinoma」と診断されることになる。さらに、膵では「carcinoid」は主にserotonin産生腫瘍に用いられている。diffuse endocrine systemの内分泌腫瘍の組織分類の統一が望まれた。
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座長名:橋立 英樹(新潟市民病院 病理科) |
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演題番号23
演者診断名:Abdominal compartment syndrome(ACS)
最終診断:Abdominal compartment syndrome
討議内容:
アンケートでは、Dilatation of tha colon、ACS、 Drug-associated ACS、Thinner smooth muscle of the intestine etc. と、ほとんどが腸管の著明な拡張や菲薄化を有意な所見としてとらえた診断であった。ただし、演者らが 指摘した Auerbach's plexus の節細胞の減少に言及した診断や所見は、アンケート結果には無かった。更に、演者らは統合失調症を持つ本患者の呑気症が、病態を悪化させた原因として挙げた。会場の討議では、腸管拡張だけのメカニカルな機序のみで本疾患が起こりうるかという質問に対し、ケミカルな機序も関与すると思われると、演者が回答した。統合失調症があり、呑気症があったと思われる患者ではあるが、ACSは通常腹部手術や大量の腹腔内出血がある場合に起きることがほとんどであり、当症例は貴重な症例であると思われ、演者が指摘したように、臨床医および病理医はこのような疾患群の可能性があることを念頭に置くことが必要であろうと思われた。
演題番号24
演者診断名:Malignant melanoma
最終診断:Malignant melanoma, suspicious
討議内容:
アンケート結果では、GIST,Malignant mesen-chymal tumor, Rhabdomyosarcoma, Leiomyosarcoma, Myo-fibroblastic tumor (malignant) と悪性間葉系腫瘍を挙げた人が多く、次いで Melanoma, Amelanotic melanoma であり、少数ではあるが良性または炎症性の病変とした診断も散見された。演者は多数の特殊染色を用いて、部分的ではあるものの HMB-45, S-100の陽性所見などから melanoma の可能性を示唆した。会場の討議では、肛門に発生した、ポリープ状melanomaを経験した質問者からのコメントとして、ポリープ状であっても予後は悪いという指摘があった。また、GISTの可能性を指摘する意見があったが、本症例では c-kit は陰性であったと演者が回答した。
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