第 62 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
座長総括 01
演題名 第62回日本病理学会東北支部学術集会座長総括
症例の概要・問題点

演題番号1

座長名:薄田浩幸(長岡赤十字病院検査部)
演者診断名:Intradural chordoma

討議内容
質問:提示症例の発生部位が本疾患の硬膜内における好発部位か.
回答:そうである.他に頚髄部発生の報告がある.

最終診断:Intradural chordoma(鑑別診断:Ecchordosis physaliphora)


演題番号2

座長名:薄田浩幸(長岡赤十字病院検査部)
演者診断名:MALToma with crystal storing histiocytosis

討議内容
質問:組織球には何か特異的所見はあるか.CD1aは染めたか.
回答:まだ調べられていない.CD1aは染めていない.
質問:アミロイド沈着はあったか.偏光はあったか.
回答:いずれもなかった.
質問:MALTomaとlymphoplasmacytic lymphomaとの鑑別は.
回答:形態学的には難しく,発生部位で鑑別した.

最終診断:MALToma with crystal storing histiocytosis


演題番号3

座長名:薄田浩幸(長岡赤十字病院検査部)
演者診断名:Polymorphous low-grade adenocarcinoma

討議内容
質問:以前に生検の既往はあったか.また,病変部にmechanical stressはあったか.
回答:いずれもなかった.
質問:扁平上皮の増生巣は反応性か.
回答:そうである.

最終診断:Polymorphous low-grade adenocarcinoma


演題番号4

座長名:橋本 優子(福島県立医大 第一病理学講座)
演者診断名:Invasive ductal carcinoma, papillotubular type, with myoepithelial differentiation and adenoid cystic/syringomatous feature

討議内容
腫瘍は,間質浸潤を示し,中心部にComedo様の壊死を伴う充実性,一部に腺管構造をみる主病巣と,その周囲に乳管内上皮内癌(ductal carcinoma in situ:DCIS)病変が広範囲に広がっていた.DCIS病変部は,adenomyoepithelioma, adenoid cystic carcinoma, sylingioma, low-grade adenosquamous carcinoma様の多彩な組織像をとっており,免疫組織化学染色学的検討では,S100β,34βE12,αSMA,vimentin,CAM5.2が陽性でmyoepithelial cellの特性を示していた.以上よりinvasive ductal carcinoma, papillotubular carcinoma with myoepithelial (adenomyoepithelioma/adenoid cystic carcinoma/ sylingioma/low-grade adenosquamous carcinoma ) differentiationと演者は結論した.
診断投票では,myoepithelial cell増殖部の組織像から,metaplastic carcinoma, low-grade adenosquamous carcinomaやsquamous cell carcinomaの診断がみられた.この症例の診断に当たって,myoepithelial cell増殖部をどこまで評価するのかが問題と考えられた.共同演者の森谷卓也 先生(東北大学病院病理部)から,「Myoepithelial cell増殖部はDCISの像であり,metaplastic carcinomaの診断には至らない.主病変部の通常型papillotubular carcinomaの診断に戻り,付記病変にとどめるのが妥当ではないか」とのコメントを頂いた.
さらに「この症例は,広範囲にDCIS病変が広がり,乳房切除術を施行されているが,この病型に特徴的な広がり方なのか?」との質問があった.演者からは「症例により異なるのではないか,この症例も範囲が狭ければ部分切除出来たのではないか」との返答であった.

最終診断:Invasive ductal carcinoma, papillotubular carcinoma with myoepithelial differentiation


演題番号5

座長名:橋本 優子(福島県立医大 第一病理学講座)
演者診断名:Pulmonary capillary hemangiomatosis

討議内容
三年前より低酸素血症,肺高血圧症.肺血流シンチでびまん性の血流障害部があり,肺血栓塞栓症が疑われていた.心不全により永眠され,剖検が施行された.剖検肺では肺血栓塞栓の所見はなく,全葉にわたり,二層以上の小血管(CD31/CD34陽性)の増加により肺胞壁が肥厚する領域が散在していた.以上所見より,Pulmonary capillary hemangiomatosis:PCHと診断した.
「中型静脈の壁の肥厚や狭窄所見があり,veno-occlusive diseaseではないのか?」の意見が複数より出た.演者からは再検討してみるが,PCHとして典型像だと思うとの返答であった.

最終診断:Pulmonary capillary hemangiomatosis


演題番号6

座長名:橋本 優子(福島県立医大 第一病理学講座)
演者診断名:Castleman's disease and FDC sarcoma

討議内容
労作時呼吸困難で発症.CTにて気管分岐部直下レベルの後縦隔に3x3.5x5.4cm大の腫瘍が指摘された.PETにてリング状にuptake像があり,悪性を否定できず,腫瘍摘出術が施行された.腫瘍は,硝子化した血管の流入を伴う,多数のリンパ濾胞から成るHyalin vascular type Castleman's desiase:HVCDの部分と双極性の紡錘形細胞が花むしろ状に増殖する肉腫様部分からなっていた.HVCDの濾胞中心部には大型異型核を有するCD21陽性follicular dendritic cell :FDCの異形成像が散見され,また濾胞内のFDC増殖像から肉腫様部分への移行像が観察された.肉腫部はCD21陽性,CD1a陰性,S100陰性を示し,FDC tumorと考えられた.演者らはFDCのhyperplastic-dysplastic sequenceを背景とする,Castleman's disease and FDC tumorと診断した.
IL-6の値,FDC tumorの良悪性,予後についての質問があった.演者からは,IL-6は測定されておらず,不明である.FDC tumorは再発・転移例が多く,現在は悪性と考えられている.悪性の指標とされる,核分裂像の増加,壊死/出血像は認めらず,FDC tumorとしたが,恐らく悪性(sarcoma)と考えた方がよいと思う.HVCDとの合併例の予後についての報告は無いようであるとの返答であった.HVCD+ FDC sarcoma 17例の報告(臨床血液 45(9)1033-1038, 2004)では,FDC sarcoma単独例に比し,予後不良とされていると座長から追加発言があった.

最終診断:Castleman's disease and FDC sarcoma


演題番号7

座長名:山口正明(公立刈田綜合病院病理部)
演者診断名:循環障害?麻酔薬による薬物性肝障害?

討議内容
急性肝不全の原因と病態としては循環障害か麻酔薬による薬物性肝障害が挙げられたが,結論には至らなかった.循環障害の機序として肝内血管スパスムの可能性なども挙げられた.麻酔薬による薬物性肝障害例の組織像の呈示もなされた.肝全体での壊死領域の分布と血行動態からのアプローチが必要である.特に肝静脈と下大静脈の検索が必要と思われた.また,抄録にあった後腹膜血腫,血性腹水や全身浮腫が肝の病態や死因に如何なる関連を持つのかも不明であった.剖検前剖検中での臨床医との討議検討,またautopsy imagingやvirtopsyという概念に基づいた剖検前全身撮像や摘出臓器の撮像など放射線部門との連携,そして時間が無く触れなかったが,異状死,医療関連死として法医学分野との関連,法医病理的扱いも必要な症例である.

最終診断名:最終診断に至らず.循環障害?麻酔薬による薬物性肝障害?


演題番号8

座長名:山口正明(公立刈田綜合病院病理部)
演者診断名:糖原病Ia型に併発した肝細胞腺腫

討議内容
演者によって肝硬変の有無と腫瘤内グリソン鞘の有無,グリコーゲン蓄積,免疫組織化学検討(CAM5.2陽性)などがなされ,既往歴とあわせ病理診断は糖原病Ia型に関連した肝細胞腺腫との診断がなされた.鑑別として高分化型肝細胞癌(HCC),腺腫様過形成(AH ),結節性再生性過形成(NRH),そして限局性結節性過形成(FNH)とlarge regenerative nodule(LRN)(=FNH-like lesion)(=血流異常に基づく過形成結節hyperplastic nodule due to abnormal vasculature)などが挙げられた.NRHとFNH,そしてLRN(FNH-like lesion)の異同についての討議もなされた.その他,腫瘤内血管の特徴,クッパー細胞の動態や類洞の血洞化の有無(CD34)も検討が必要であるとの指摘がなされた.

最終診断名:肝細胞腺腫

演題番号9

座長名:山口正明(公立刈田綜合病院病理部)
演者診断名:Osteoclast-type giant cell tumor of the pancreas

討議内容
出血顕著な腫瘤で腺癌など明らかな上皮性腫瘍成分が確認されず,また類骨もなく,演者によって多核巨細胞と単核細胞の免疫組織化学比較検討や電顕での検討がなされた.鑑別としてはUndifferentiated carcinoma with osteoclast-like giant cells(WHO)や退形成癌(膵癌取り扱い規約)などが挙げられたが,いずれも上皮性腫瘍成分が確認されず,Osteoclast-like giant cell tumor(AFIP)との診断が妥当と思われる.単核細胞には核分裂像も散見され,またKi67陽性率が30-40%と高かったが,巨細胞を含めた解釈となると反応性か腫瘍性かの結論は困難であった.

最終診断名:Osteoclast-like giant cell tumor(AFIP)


演題番号10

座長名:杉田暁大(由利組合総合病院検査科 病理)
演者診断名:Mixed endocrine and non-endocrine epithelial tumors

討議内容
稀な症例ではあるが診断名に関しては特に討論は行われず.合併症として下垂体腺腫(GH産生性)あり.他の内分泌臓器には腫瘍なし.
最終診断:Mixed endocrine and non-endocrine epithelial tumors


演題番号11

座長名:杉田暁大(由利組合総合病院検査科 病理)
演者診断名:低分化型滑膜肉腫

討議内容
組織像から鑑別する疾患としてEwing sarcoma/PNETがあげられたが,免疫染色及びFISHを用いたSYT geneの証明によりsynovial sarcomaと最終的に診断された.

最終診断:Synovial sarcoma (poorly differentiated type)


演題番号12

座長名:杉田暁大(由利組合総合病院検査科 病理)
演者診断名:Ischemic colitis (associated with MELAS?)

討議内容
固有筋層の外輪層の萎縮,血管平滑筋に空胞状変性などMELASと合致する所見はあるのだが,異常ミトコンドリアの大腸への局在性を確認するため,SDH染色などを施行する必要がある.

最終診断:MEALと虚血性大腸炎の直接関連は不明.結論に至らず.


演題番号13

座長名:田中正則(弘前市立病院臨床検査科病理)
演者診断名:Hodgkin病+Crohn病

討議内容
H-E所見とCD30陽性,CD15陽性,EBV陽性の所見などから,小腸のHodgkin病であることが確認された.また, open ulcerの近傍にある肉芽腫を別にしても,腸間膜側の長い縦走潰瘍(肉眼所見)や全層炎(組織所見)などの典型的所見からCrohn病に矛盾がない症例であるとの結論に至った.

最終診断名:Primary EBV-associated Hodgkin's disease of the ileum complicating Crohn's disease


演題番号14

座長名:田中正則(弘前市立病院臨床検査科病理)
演者診断名:おそらくpan-colonicにカハ・ル間質細胞が減少している巨大結腸症

討議内容
糖尿病の高齢者にみられた巨大結腸症の剖検症例である.組織学的には大腸全域でCajalの間質細胞が減少していたが,糖尿病による変性・壊死が原因とする意見のほかにabdominal compartment syndromeの可能性が討議され,確定的な結論は得られなかった.

最終診断名:Cajalの間質細胞の減少を伴う巨大結腸症


演題番号15

座長名:田中正則(弘前市立病院臨床検査科病理)
演者診断名:Primary intestinal lymphangiectasia

討議内容
鑑別診断のうちlymphangiectatic cystは,本症例が若年発症であることや小腸壁全層から腸間膜に及ぶ病変であることなどから否定的と判断された.結局,primary intestinal lymphangiectasiaとlymphangioma(腸間膜原発)の2つの可能性を併記することとなった.

最終診断名:Primary intestinal lymphangiectasia or Lymphangioma


演題番号16

座長名:大藤高志(みやぎ県南中核病院病理科)
演題診断名:Gastrointestinal stromal tumor

討議内容
マクロから血管系腫瘍も考えられたが,c-kit陽性,CD34陰性,S-100陽性で,腹腔内多発転移を伴う腸間膜原発GISTであると最終診断された.GISTは胃60・70%,小腸20・30%と基本的に消化管から発生する腫瘍だが,稀に腸間膜,大網,後腹膜発生があり,本例はその様な1例であった.なお,鑑別診断として,一応,悪性黒色腫も考えるべきだとの指摘があったが,その後のHMB45免疫染色は陰性であった.

最終診断名:Gastrointestinal stromal tumor


演題番号17

座長名:大藤高志(みやぎ県南中核病院病理科)
演題診断名:Extranodal Castleman's disease, plasma cell type.

討議内容
後腹膜リンパ濾胞過形成が悪性とは云えないという点では意見の一致をみたが,これを形質細胞型のリンパ節外性カ・スルマン病とするか否かでは意見が分かれた.将来的には"IL6症候群"といった分類に入れられるのではないかという意見もあった.

最終診断名:Extranodal Castleman's disease, plasma cell type.疑い(IL6症候群)


演題番号18

座長名:大藤高志(みやぎ県南中核病院病理科)
演題診断名:Mesenchymal chodrosarcoma

討議内容
診断は骨外性間葉性軟骨肉腫で,後腹膜発生例の報告は少ないそうだ.演者はこれまでに経験した2例を加え,本疾患の確定診断にSOX9免疫染色が有用であることを強調した.WHOのブル・ブック2002年版には小型円形細胞部の鑑別診断で特に手助けとなる免疫染色はないとあり,SOX9は今後有力な武器となることを教わった.

最終診断名:Mesenchymal chondrosarcoma (extraskeletal)


演題番号19

座長名 : 三浦康宏 (岩手医科大学病理学第一講座)
演者診断名:シトルリン血症?型

討議内容
HE染色標本でシトルリン血症?型とReye's syndromeとの鑑別は可能か,存胎中の異常所見の有無,治療方法,類似した代謝異常症例 (20代の肝移植後のオルニチン血症)と比較した肝脂肪変性の程度差,剖検時の特異的な臭気の有無,本症例出題意義が討議された.
討議中Reye's syndromeとの異同が問題点となったが,本症例のような代謝異常症例に遭遇した場合,HE染色標本のみでなく,電顕による微細形態の精査,遺伝子検索及びタンデム・マス試験などの方法を経て診断を確定することが望ましい.

最終診断名 : シトルリン血症?型 (先天性アルギノコハク酸酵素欠損症), 常染色体劣性


演題番号20

座長名 : 三浦康宏 (岩手医科大学病理学第一講座)
演者診断名:Adenosarcoma with sarcomatous overgrowth

討議内容
配付標本のmesonephrine cystの可能性と間質細胞の異型の程度,組織診断の妥当性,嚢胞をliningする線毛を有する上皮の由来について討議した.
配付標本での間質細胞の密度上昇と細胞異型,腫瘤本体は子宮壁への浸潤を示し,腫瘤が異型間質細胞と腺腔構造が明瞭な腺成分の双方からなり,腺成分は未分化なものではなかったとの演者からの回答が得られた.尚,線毛上皮はミュラー管上皮に由来するものであった.

最終診断名 : Adenosarcoma


演題番号21

座長名 : 三浦康宏 (岩手医科大学病理学第一講座)
演者診断名:Low-grade fibromyxoid sarcoma(低悪性線維粘液肉腫)

討議内容
演者より,組織中の血管を取り巻くような島状の細胞集団の解釈,組織診断の妥当性についての質問があった.
組織診断の妥当性,"aggressive angiomyofibroblastoma"または"cellular angiomyofibroblastoma" の可能性につき討議された.Angiomyofibroblastomaには"aggressive-"及び"cellular-"の組織成分が混在,または中間的な性格を有する症例もある.本症例は診断者の意見を一義的に考えるが,経過観察後の再発の有無をもって最終診断とすると総括した.

最終診断名 : Angiomyofibroblastoma, 但し経過観察を要し,最終的な結論とする.


演題番号22

座長名:湯田文朗(山形市立病院済生館臨床検査室病理)
演者診断名:Low grade fibromyxoid sarcoma

討議内容
線維化と低異型度の紡錘細胞からなる多結節分葉状の軟部腫瘍で,演者はgiant rosetteを示すなどlow grade fibromyxoid sarcomaと診断している.myxoid patternが目立たず,sclerosing epitheliod fibrosarcomaの診断名はどうか.また両腫瘍のoverlapを述べる報告もあるとの意見が出された.

最終診断名:Low grade fibromyxoid sarcoma


演題番号23

座長名:湯田文朗(山形市立病院済生館臨床検査室病理)
演者診断名:Granulocytic sarcoma (AML, M1)

討議内容
Granulocytic sarcomaの典型例であったが,AML(M1)例は比較的稀である.皮疹の肉眼的所見で皮膚科医は造血器疾患を疑っていた.リンパ腫浸潤との鑑別を要したが,確定診断は容易であった.

最終診断名:Cutaneous involvement by myeloid leukemia(Granulocytic sarcoma/Myeloid sarcoma)


演題番号24

座長名:湯田文朗(山形市立病院済生館臨床検査室病理)
演者診断名:Malignant nodular hidradenoma, low grade

討議内容
Eccrine differentiationおよび形態的に細胞異型を示すsweat gland tumorの症例である.演者はnodular hidradenoma類似の特徴を示し,MIB-1およびp53陽性率が高頻度であること等から,低悪性を考えている.アンケートでは診断は「悪性皮膚付属器腫瘍(広義)」までの診断が多かった.poroid characteristicsも窺われたが,表皮との関連がなくhidradenoma類似の特徴を示しているのではという意見があった.悪性汗腺腫瘍はsubclassificationが難しい症例が多く,また異型度と予後との関連が不明瞭となることがしばしばであり,臨床的には注意を要する.

最終診断名:Sweat galnd neoplasm(Nodular hidradenoma) with borderline malignancy(演者投票)