第 62 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 12 区分 B. 典型的・教育的・その他の症例
部位/臓器 消化器 大腸
演題名 虚血性大腸炎を合併したミトコンドリア脳筋症(MELAS)の一例
出題者および所属
山形大学医学部 発達生体防御学講座 病理病態学分野1), 山形県立新庄病院 内科2), 同 外科3)
岩場 晶子1), 山川 光徳1), 黒川 克朗2), 中嶋 凱夫2), 神宮 彰3),
大竹 浩也1), 斉藤 仁昭1), 前田 邦彦1)
症例の概要・問題点
症例 54歳, 女性
主訴 腹痛
既往歴 以前から「ときどき気を失う」ことがあり,また便秘ぎみで週1回
の便通であった.10年前に感音性難聴と診断された.8年前に腸閉
塞で入院.5年前に半月板損傷で手術を受けた.MELAS遺伝子変異
あり.
家族歴 長女はMELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic
acidosis, and stroke-like episodes)である.次女(MELAS遺伝子
変異あり)は特に症状なく経過観察中.
現病歴 某日午後より腹痛あり,腸閉塞のため入院となった.
入院時現症 身長160cm,体重53kg,体温36.4℃,血圧130/70?Hg,脈拍80,
腹部は平坦で軟.
検査所見 WBC 11400/?3↑, RBC 393X104/?3, Hb 12.1g/dl,
Plt 18.7×104/mm3, GOT 17 IU/l, GPT 13 IU/l, LDH 202 IU/l,
CK 93 IU/l, BUN 23mg/dl↑, Cr 0.6 mg/dl, Na 141 mEq/l,
K 3.0 mEq/l↓, Cl 101 mEq/l, 血糖 224mg/dl↑,
CRP 0.12 μg/dl, 乳酸 26.1mg/dl↑, ピルビン酸 1.36mg/dl↑
経過 翌日の内視鏡検査でS状結腸が黒変しており粘膜壊死と診断,左半
結腸切除術が行われた.病理所見は虚血性大腸炎と考えられた.
配布標本 S状結腸

問題点 MELASに関連した変化と考えてよいか?
最終病理診断 Ischemic colitis associated with MELAS
(静脈壁平滑筋の不規則な肥厚や空胞変性および腸管内在神経の変性と
虚血性大腸炎発症の関係,固有筋層の区域性萎縮の成因についてさまざまな意見が述べられた)
演者診断 Mitochondrial neurogastrointestinal encephalopathy
コメント MELASはミトコンドリア病の一型で,脳卒中様症状を特徴とする.病理学的には血管(小動脈)の異常が指摘されているが,虚血を起こす機序は解明されていない.虚血性大腸炎はMELASの消化管合併症のひとつであり,病理所見として平滑筋細胞の空胞変性とともに,固有筋層外縦層の萎縮,神経叢の神経細胞の変性が報告されている.
画像1 画像2
大腸粘膜の浮腫,出血,上皮の変性,炎症細胞浸潤をみとめる.(HE,×4) 漿膜下層の静脈壁の平滑筋細胞に空胞変性をみとめる.(HE,×20)

画像3 画像4
壊死部の固有筋層外縦層が萎縮し消失している.(HE,×4) 漿膜下層の静脈壁の筋層が不均一に肥厚している.(EM,×10)