第 61 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 18 区分 A. 難解・問題症例
部位/臓器 造血器 リンパ節
演題名 小児リンパ節腫脹
出題者および所属
仙台市立病院病理科1)
東北大学大学院医学研究科 形態病理学講座2)
仙台市立病院小児科3)

長沼 廣1),渋谷 里絵2)
近岡 秀二3),佐古 恩3)
大竹 正俊3)
症例の概要・問題点
症例 3歳,男児
主訴 微熱,頚部腫脹
現病歴
微熱,鼻汁,咳嗽,右頚部腫脹を訴え,近医受診.
抗生剤処方され,一旦解熱するも,その後も微熱続き,
同医再診.頚部腫脹も継続するため,当院小児科紹介受診.
入院時現症
体重 12.7 kg,身長 88 cm,顔色不良.右頚部リンパ節は
3.5cm大で,無痛性,弾性硬.肝2横指,脾1.5横指触知.
入院時検査所見
 WBC 9900 /μl (seg 62%, mono 7.3%, lym 30.3%), Hb 9.6 g/dl,
 Plt 50.2x104 /μl, Fe 9 μg/dl, UIBC 207μg/dl,
 TIBC 216μg/dl, TP 8.1 g/dl, Alb 3.7 g/dl, Na 136 mEq/l,
 K 3.6 mEq/l, Cl 96 mEq/l, BUN 8.0 mg/dl, Cr 0.3 mg/dl,
 CRP 6.7 mg/dl, ESR 11O mm/1hr, GOT 20 IU/l, GPT 7 IU/l,
 ALP 517 IU/l, LDH 181 IU/l, γ-GTP 11 IU/l, T-bil O.2 mg/dl,
 CK 19 U/l, amylase 69 IU/l, 尿中β2microglobulin 305 μg/l,
 フェリチン 49 ng/ml, PT 97%, APTT 38.1 秒, Fib 522 mg/dl,
 ATIII  82%, FDP 3.0 μg/ml, IgG 1205 mg/dl, IgA 268 mg/dl,
 IgM 488 mg/dl, C3c 161.5 mg/dl, C4 29.6 mg/dl, CH50 63.8 U/ml,
 ANA 20倍以下, RF 11 IU/ml, HBsAg 陰性, HCVAb 陰性, EBV抗VCAIgM 陰性,
 EBV抗EBNAIgG 陽性, CMVlgM 陰性, sIL-2R 2050 U/ml, NSE 11.4 ng/ml,
 INF-γ 0.1 IU/ml以下, lL-6 12.7 pg/ml, TNF-α 5 pg/ml以下,
 トキソプラスマIgM 0.7以下, 抗ds-DNA抗体 陰性, 抗RNP抗体 陰性,
 抗sm抗体 陰性, 免疫複合体 陰性, PR3-ANCA 陰性
骨髄検査 NCC 35.Ox104 /μl, Mgk 231 /ul, 白血病細胞なし
CT・MRI検査
右頚部に径4cm大,左鎖骨上窩に1.5cm大,腹部大動
脈左側に2cm大のリンパ節腫大を認めた.腹部リンパ
節腫大による尿管圧迫で左水腎症.Gaシンチでは腫大
したリンパ節部に集積を認めた.
経過
入院後抗生剤治療を施行したが,微熱は継続し,CRPの
低下も見られなかった.頚部リンパ節の縮小も見られず,
貧血が進んだため,悪性腫瘍を疑い,頚部リンパ節生検
施行するも,悪性所見なし.特別な治療をしなかったが,
全身状態は良好であった.全身状態が安定した1ヶ月後の
外泊中に意識は清明であったが,頻回に嘔吐し,全身強
直間代性痙攣出現.再入院後意識障害(JCS 100)が出現し,
痙攣は継続.39度の発熱,白血球増多があり,髄膜炎を
疑ったが,髄液は正常であった.その後再度リンパ節腫
大が見られ,高度肝機能障害
(GOT 2232 IU/l, GPT 1558 IU/l, LDH 3860 IU/l)が出現.
NH3は正常.腎不全も出現し,フェリチン1195 ng/l,
尿β2ミクログロブリン16400 μg/lと上昇し,血球貧食症
侯群を疑い,治療開始.現在はステロイド治療で全身状態
は安定しているが,リンパ節腫大は変化なく,意識障害
も継続.
配布標本 第1回目の生検リンパ節

問題点 1) リンパ節の病変の病理診断,
2) 全身状態とリンパ節病変との関連
最終病理診断 Viral lymphadenitis caused by undetected virus.
コメント
EBウィルス感染が最も疑われたが,血清学的には証明されず,
follicular dendritic cell sarcomaも考えられたが,
CD21は陰性であった.最終的には特定できないウィルス感染
によるものと推察された.
画像1 画像2
リンパ節の基本構造が失われ,線維性変化を認める(HE) 多彩な炎症性細胞浸潤を認め,紡錐形細胞も見るが,腫瘍細胞は認めない(HE)

画像3 画像4
多核巨細胞を混えた肉芽反応も認める(HE) 一部に動静脈の血管炎を見る(EM)