第 61 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
特別講演2 02
演題名 剖検例からみた神経病理学:時代による病理像の変化と診断への糸口
出題者および所属
弘前大学医学部脳神経血管病態研究施設 分子病態部門
若林 孝一
症例の概要・問題点
要旨
  神経病理を始めて今年で20年になる.その間,鏡検した神
経系の剖検例は1000例ほどであるが,そこには時代とともに
いくつかの変化が認められる.本講演では以下の3点につい
て述べてみたい.

  1) 時代による剖検対象疾患の変化:20年前に比べ,脳血
     管障害が減り,神経変性疾患や痴呆の剖検例が増えて
     きた.しかし,神経疾患の剖検例は全国的に減少の傾
     向にあり,神経病理を専門とする施設も減少しつつある.

  2) 高齢化による病理像の変化:高齢化によりアルツハイマ
     ー病だけでなく,パーキンソン病も筋萎縮性側索硬化症(ALS)

     も増えている.2つ以上の神経変性疾患が合併することも稀で
     ない.さらに,高齢化の影響は頻度だけでなく病理像にも及

     んでいる.例えばステレオタイプと考えられてきたALSの病
     理像も高齢化に伴い変化しつつある.

  3) 神経変性疾患の考え方の変化:神経変性疾患とは神経細胞が
     系統性をもって進行性に侵される原因不明の難病と定義され
     てきた.しかし,この定義が変わろうとしている.(・H タウ
     やシヌクレインという標的分子が見つかり,変性の対象は神経
     細胞だけでなくグリア細胞にも及ぶことが明らかとなった.
     多系統萎縮症ではシヌクレインの蓄積は神経細胞よりもグリア
     細胞に広範かつ高度であり,その病的機序はニューロン・グリ
     ア連関として捉える必要がある.(・ァ 標的分子の同定により
     神経変性疾患の多くが「蛋白凝集病」とみなされるようになっ
     てきている.実際,多くの神経変性疾患では特徴的な封入体
     (線維性凝集物)が出現し病理診断にも有用である.(・H アル
     ツハイマー病脳に蓄積するアミロイドが治療により

     消失したり,ポリグルタミン病における変性過程が可逆的であ
     るなど,神経変性疾患の病的過程は必ずしも細胞死に向かう

     一方的なプロセスではない.