第 60 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース | |||||||||||||||||||||||
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症例の概要・問題点 | |||||||||||||||||||||||
近年,生活習慣の変化や画像診断による早期発見などによって,本邦女性の乳癌罹患率が著しく増加してきた.病理医にとっても,乳癌症例の診断をする機会が増しているが,臨床的診断手法や治療法の変遷に伴い,検体の種類や求められる報告書の内容が複雑化してきているのが実情である.一方,世界的にも乳癌に関連する医療訴訟が多く,病理がらみの事例も決して少なくはない. 今回,乳癌の病理診断に関連して,この数年間に日常診療の中に恒常的に取り入れられるようになった項目について,その意義や注意点などを解説する. 1. 乳癌の組織型:頻度の変化・新しい概念 最近,WHOの新分類が提唱された(2003年)が,この中で特に注目すべきものとしてinvasive micropapillary carcinomaや,DCISを含めた乳管内上皮性腫瘍ductal intraepithelial neoplasiaなどがある. 一方,日本の乳癌取扱い規約分類は現状では依然と変わりはないが,浸潤性乳管癌・通常型の亜分類(乳頭腺管癌,充実腺管癌,硬癌)は病理医にとってはやや難解であることは否めないが,画像の特徴(主腫瘤の特徴や広がり診断)と対比する上で極めて有用であることも再認識されている. 2. 予後推定のための組織学的悪性度の評価 浸潤性乳癌(通常型)は乳癌全体の70-80%を占めることから,これらを悪性度によってさらに亜分類する意義は高い.核異型の程度と核分裂像の頻度を組み合わせた核グレード分類(N・SAS・BC分類:取扱い規約に掲載)やBloom and Richardson分類変法(Elston and EllisによるNottingham分類)が日常的に用いられており,いずれも予後との相関が得られている. 3. 治療適応決定のための免疫組織化学の有用性 乳癌の診療を行う上で,ホルモン受容体(ER,PR)検索は不可欠である.以前より行われた生化学的手法による検索が廃止になったために,その検索は免疫組織化学に委ねられる結果となった.現在,日本乳癌学会の研究班(2003-4年度:梅村班)で染色法や判定法に対する標準化の試みがなされている. 浸潤癌においては,HER2遺伝子過剰発現の検索も重要であり,標準的な検体処理法や判定法の遵守が望まれる.また,FISH法との使い分けについても十分に理解しておく必要がある. 4. 針生検の導入および細胞診・針生検の新報告様式 針生検(CNB)は新たな非侵襲的診断法である.14-16G針を用いる方法と11Gなどを用いた吸引採取法(マンモトーム)がある.長い間主体であった穿刺吸引細胞診(FNA)に成り代わる新手法として注目されるが,現状ではFNAとの使い分けを行っている施設が多く,それぞれの利点と欠点,感度と特異度を十分理解しておく必要がある.特にCNBも,サンプリングなどの問題から必ずしも最終診断とならない場合があること,診断困難例が存在することは知っておくべきである. また,乳癌取扱い規約第15版(2004年)では,CNBと細胞診に関する新たな報告様式を提唱している.いずれも検体不適切の項目を設けていること,検体適切であった場合,特に細胞診ではクラス分類を廃したこと,推定疾患を述べるよう求めていること,診断結果について努力目標を設けていることなどが特筆すべき点である. 5. 乳房温存療法における切除断端の評価 乳房温存療法が導入されてからすでに20年弱が経過しており,温存後再発症例の予後に対するデータなども徐々に明らかにされつつある.しかし,病理医にとっては,断端の術中迅速診断はストレスが多く,また温存手術例は5mm毎の全割標本作成を求められるために多大な労力を要する.現状においてはこれらの負担を軽減できるような妙案を持ち合わせていないが,断端検索に関する標準化,可能な限りの(病理検索の)省力化は今後の大きな課題のひとつととらえている. 6. センチネルリンパ節生検の意義と検索方法 色素やアイソトープによってセンチネルリンパ節(SLN)を発見し,SLNへの癌転移の有無を検索し,他のリンパ節郭清の省略の適否を検討することは極めて有意義である.ここで最も問題となることは,SLNリンパ節に対する病理検索法の標準化である.細かく検索するほど,あるいはサイトケラチン19などに対する免疫組織化学やPCR法などを併用するほど転移陽性率が増すことが明らかにされてはいるが,それらはいずれも微小転移巣であり,予後やバックアップ郭清の必要性との関連性については今後さらに検討を加える必要がある. |
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アンケート結果のページ | |||||||||||||||||||||||
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