第 60 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 27 区分 B. 典型的・教育的・その他の症例
部位/臓器 造血器 骨髄
演題名 骨髄線維症の1例
出題者および所属
楠美 智巳1, 玉井 佳子2, 相澤 弘1, 
千葉 裕樹1, 黒滝日出一3, 鬼島宏1
1 弘前大学医学部病理学第二講座, 2 同内科学第一講座,
3 大館市立総合病院臨床検査科
症例の概要・問題点
症例 67歳男性
経過
18年前,近医で慢性骨髄性白血病と診断されたが,家族が告知を希望せず
治療を受けなかった。その後followされていなかった。
約1年前より腹部膨満を自覚した。徐々に増悪し,約4ヵ月前に当院を受診した。
末梢血・生化学データは以下の通りであった。
WBC 108,900/_l(幼弱芽球<20%), RBC 2.43xl04/_l(涙滴赤血球出現),
Hb 7.3g/dl, Plt 22.8x104/_l, ALP 1,408 U/l, LDH 1,540 U/l.
Ph染色体は陰性であった。一方,46,XY,add(7)(q22),add(21)(q11)と
染色体異常が認められた。骨髄穿刺はdry tapであり,骨髄生検では
骨梁増生・骨髄の線維化・造血細胞の著減を示した。骨髄線維症と診断された。
画像診断では肝脾腫の他,両側腎孟・尿管の充実性拡張を認めた。
ハイドレキシウレア内服を開始し,脾腫の改善は見られた。
しかし,腹水が著明に増加し,腹水細胞診では骨髄芽球が認められた。
治療開始後約2.5ヵ月の時点で,末梢血中の芽球が20%を越え,
definiteな急性白血病となった。
少量AraC投与を開始したが,治療に反応せず,永眠した(初診より131病目)。
剖検時肉眼所見
腹膜肥厚(大網,腸間膜,消化管壁,腹壁),腹水(6900ml・血性),
肝腫大(1810g)・門脈域拡大,脾腫(760g),後腹膜線維化,
腎孟・尿管の肥厚,左肺(300g)の下葉に多数の結節,
右肺(450g)の下葉線維化・横隔膜との癒着
配布標本 剖検時の腰椎(1),腎臓(2)

問題点
1) 骨髄線維症は原発性か二次性か。
2) 骨髄線維症の白血病化は通常FAB分類のM7が多いとされているが,本例はどうであったか。
3) 後腹膜腔,腹腔に広範に髄外造血が見られ,比較的珍しいと考えられた。
最終病理診断
演者診断:原発性骨髄線維症に続発した急性骨髄性白血病(M1 or M2)
          骨髄増殖性疾患(本態性血小板血症)に続発した骨髄線維症および
     急性骨髄性白血病(M1 or M2)の可能性も残る。
演者コメント  骨髄線維症が原発性なのか二次性なのか,初発時の標本を検索することができなかったので,確定はできなかった. 骨髄線維症の白血病化は,実際M7が最も多いが,M3以外のすべての型が出現する.なお,本例の骨髄は大部分が線維化巣であり,増殖部分は比較的小範囲であった.
本例のような後腹膜や腹膜の広範な髄外造血は,報告例はあるが,その頻度は不明であった.

参考文献:
Tefferi A. Myelofibrosis with myeloid metaplasia. N Engl J Med 2000;342:1255-65.
Mesa RA, et al. Leukemic transformation in myelofibrosis with myeloid metaplasia: a single-institution experience with 91 cases. Blood 2005;105:973-7.
 
画像の説明 図1:剖検時骨髄弱拡大像.線維化の部分と骨髄細胞の増殖部分がある.
図2:骨髄強拡大像.異型骨髄細胞の単調な増殖.
図3:両側腎盂・腎周囲に髄外造血巣が線維組織様に見られる.
図4:腎実質への白血病細胞浸潤.
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