第 60 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 24 区分 A. 難解・問題症例
部位/臓器 消化管 小腸
演題名 回腸腫瘍の一例
出題者および所属
折居智彦1、前田邦彦1、
斉藤仁昭1、山川光徳1、
藤島丈2、市原征洋2、
武田真一2、高橋一二三3
*1. 山形大学医学部  発達生体防御学講座  病理病態学分野
*2. 白鷹町立病院  外科  *3. 同  内科
症例の概要・問題点
症例 46才、男性
既往歴 気胸(詳細不明)
主訴 肺腫瘍治療後の腹痛
現病歴
約5か月前に胸背部痛と血痰を主訴に近医(開業医)を受診し、
右上肺野の腫瘍を指摘され地域病院に紹介となった。
精査の結果、右肺上葉に3cm大の腫瘍を2ヶ所に認められた。
加療目的に高次地域基幹病院へ転院したが、両肺に高度の肺気腫合併があり、
CT下肺生検や手術は気胸合併のリスクが高いとの判断から行われなかった。
診断未確定のまま腫瘍縮小と疼痛緩和目的に、肺腫瘍に対して総線量66Gyの
放射線照射が施行された。その結果、腫瘍は若干縮小し、症状も軽快したため、
もとの地域病院に外来通院しながら、テガフール・ウラシルの経口投与を受けていた。
退院から約2か月後、腹痛が出現し、腸閉塞と限局性腹膜炎とのことで、緊急手術となった。
その際、回腸末端部から口側30cmの部位に7x7cmの腫瘍があり、可及的に切除された。
現在、術後3週間目であるが、精査の結果腹腔内に腹膜播種と思われる腫瘍の増生が
認められている。尚、経過中に腫瘍マーカー等の異常はみられなかった。
肉眼所見
回腸腫瘍には、広汎な出血、壊死、変性がみられた。
一部に潰瘍の穿通を認め、  空腸が被覆するように癒着していた。

問題点 病理診断
最終病理診断
演者診断:Intestinal metastasis of lung carcinoma 
         (undifferentiated large cell carcinoma)
演者コメント  当該回腸腫瘍は,非常に脆弱で広汎な出血,壊死,変性を伴っていた.一部に潰瘍の穿通を認め,空腸が被覆するように癒着していた.
組織所見:腫瘍は紡錘形ないし多稜形の細胞びまん性増殖からなり,非常に多形性に富み多核巨細胞も多数見られ,一見肉腫や組織球系腫瘍などに類似した像を示しているが,辺縁に近い部分では,胞巣状の配列も見られた.免疫組織化学的には,各種cytokeratin, EMAの上皮系マーカーを明瞭に発現したが,その他リンパ・組織球系,神経・内分泌系,間葉系マーカーの発現は一部を除いて見られなかった.
 組織学的・免疫組織学的特徴,回腸原発腫瘍が非常に希なこと,肺癌(特に大細胞癌)は比較的小腸転移をきたしやすいこと,診断未確定だが先行する肺病変があることから,intestinal metastasis of lung carcinoma (undifferentiated large cell carcinoma)と診断し,討論にても概ね認められた.
 
画像の説明 図1:初診時胸部CT画像.右上肺野に腫瘍性様病変を2ヶ所に認め,肋骨・椎体への浸潤も疑われる.
図2:回腸腫瘍肉眼像.切り出し後の再構築.中央に深い潰瘍を形成している.
図3:腫瘍のHE像.多形性の強い腫瘍細胞からなる.
図4:腫瘍辺縁部のHE像.胞巣状配列がみられる.
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