第 60 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP
−TN) 抄録データベース |
演題番号 |
17 |
区分 |
B. 典型的・教育的・その他の症例 |
出題者および所属 |
|
石田和之1、森谷卓也1、
海野倫明2、山本久仁治2、
下瀬川徹3、笹野公伸4
1) 東北大学病院病理部
2) 東北大学病院肝胆膵外科
3) 東北大学病院消化器内科
4) 東北大学大学院医学系研究科病理診断学分野 |
|
症例の概要・問題点 |
症例 |
48歳、男性 |
主訴 |
体重減少 |
家族歴 |
母方祖母が乳癌 |
既往歴 |
特記事項なし |
現病歴 |
体重減少,口渇,多飲,多尿が出現し,白血球数・CRPの上昇に加え,
高血糖(443mg/dl)を指摘され入院。
スクリーニングのため腹部超音波検査を施行したところ,肝腫瘤を指摘された。
白血球数 10900(好酸球13%),血清肝酵素およびアミラーゼは正常範囲,
IgG; 2872mg/dl(IgG4; 2150mg/dl), IgA; 105mg/dl, IgM; 36mg/dl,
種々の自己抗体は陰性、IL-2R; 1955 U/ml.
腫瘍マーカーはCA19-9; 87.3 U/ml,PIVKA-2; 26 mAU/ml,
DUPAN-2; 248 U/ml, Span-1; 45 U/ml, エラスターゼ1; 851 ng/dl.
肝外側区域切除術+膵臓針生検が施行された。
術中所見では,肝S2-S3に径約6cmの白色弾性硬の腫瘍を認めた。
辺縁は不整で被膜は存在せず。
S7及びS6に径約2cm, S5に径約1.5cmの同様な腫瘍を認めた。
膵臓は全体に硬く触知され,特に体尾部は白色に変色し硬く触れた。
|
配布標本 |
肝腫瘤 |
|
|
問題点 |
腫瘤の病理診断および病因
|
最終病理診断 |
演者診断:
IgG4-related autoimmune pancreatitis
with inflammatory pseudotumor in the liver.
|
演者コメント |
【病理組織所見】
肝腫瘤は被膜を有さないものの周囲との境界は明瞭で,形質細胞,好酸球,リンパ球の強い浸潤を認めた.これら炎症細胞は,腫瘤内および近傍で,種々のレベルの胆管や血管の壁に浸潤するとともに,神経周囲にも存在していた.また血管内腔に炎症細胞が充満して閉塞性静脈炎の像も認められ,腫瘍内には壊死が観察された.免疫組織学的には形質細胞の多くがIgG 陽性だが,IgA, IgM 陽性細胞も混じており,κ鎖とλ鎖はともに陽性でモノクローナリティーは認められなかった.さらに形質細胞の多くがIgG4陽性であり,リンパ球はCD3陽性細胞とCD20陽性細胞が混在していた.非腫瘤部の末梢門脈域にも腫瘤と同様の炎症細胞浸潤を伴っていたが実質への炎症の波及はわずかであった.膵臓は線維化と実質の破壊が広範に認められ,好酸球および形質細胞の著明な浸潤を伴っていた.
【考察】
IgG4-related autoimmune diseaseは比較的新しい疾患概念である.Notoharaらは原因不明の慢性膵炎をLymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis (LPSP)と Idiopathic duct-centric chronic pancreatitisとの2型に分類した.この2型のうちLPSPでは22例全例が高齢男性に発生し,リンパ球,形質細胞主体の炎症性細胞浸潤が膵臓だけではなく総胆管にも波及し,閉塞性血静脈炎を合併したと報告しており,今回の症例と関連性を有しているものと思われる.但し彼らはIgG4との関連性に言及はしているが,血清値や免疫染色による確認はなされていない.また本症例では強い好酸球浸潤を伴っているが,Susanらの報告でLPSPにおいて好酸球が目立つ症例の存在も言及されている.
Kamisawaらは2003年にIgG4-related autoimmune diseaseの概念を提唱し,自己免疫性膵炎の8例では,同様の炎症が膵臓周囲,胆道,胆嚢,肝門脈域,胃粘膜,結腸粘膜,唾液腺,リンパ節,骨髄を種々の程度に侵し,いずれにもIgG4陽性形質細胞がみられたと報告している.さらに,ZenらはIgG4関連硬化性胆管炎として17例をまとめ,病変の分布により6亜型に分類した.症例はいずれも男性であり年齢分布は59-79歳,共通する病理組織学的特徴は総胆管の線維性肥厚,形質細胞(IgG4陽性)とリンパ球および好酸球の浸潤,閉塞性静脈炎で,うち5例で本症例と同様に肝臓に炎症性偽腫瘍を認めた.またPSCとは異なる病理像であり,PSCではIgG4陽性細胞の浸潤はみられなかった.おそらくこれまで報告されている肝臓の炎症性偽腫瘍の一部は本疾患と相同のものも含まれていると予想される.
以上より本症例は肝臓と膵臓に病変が波及したIgG4-related autoimmune diseaseと判断した.なお,本例の術後データは改善し,ステロイド投与もなされ経過は良好である.
【参考文献】
(1) Notohara K,et al. Idiopathic chronic pancreatitis with periductal lympho-plasmacytic infiltration. Clinicopathologic features of 35 cases. Am J Surg Pathol 27(8): 1119-1127, 2003.
(2) Susan CA, et al. Eosinophilic pancreatitis and increased Eosinophils in the pancreas. Am J Surg Pathol 27(3): 334-342, 2003.
(3)Kamisawa T, et al. A new clinicopathological entity of IgG4-related autoimmune disease. J.Gastroenterol 2003; 38: 982-984.
(4)Zen Y et al. IgG4-related sclerosing cholangitis with and without hepatic inflammatory pseudotumor, and sclerosing pancreatitis-associated sclerosing cholangitis. Am J Surg Pathol 28(9): 1193-1203, 2004.
|
画像の説明 |
図1:肝臓の腫瘍内には肝門部の胆管や門脈が取り込まれ,強い炎症反応が認められる(HE,×40).
図2:炎症性細胞の主体は形質細胞と好酸球で,リンパ球も混在している(HE,×400).
図3:閉塞性静脈炎の像を認める(Elastica-Masson,×100).
図4:IgG4陽性の形質細胞が浸潤している(HE,×200).
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|