考察 |
<組織像>
低倍の光顕像では,リンパ節組織を辺縁部に圧排するように腫瘍が増殖しており,拡大を上げてみるとspindle
cellが複雑に交錯し増殖している所見を認めた.また部分的に出血も認めた.Spindle
cellに核異型,核分裂像は乏しく,悪性を示唆する所見は無かったが,部分的に核がpalisading
patternを呈して配列している箇所が見られた.また本例に特徴的な所見として,腫瘍の増殖巣に挟まれて,エオジン好性で無構造性の帯状構造物を認めた.
<免疫染色>
免疫染色の結果をまとめると,本例の腫瘍はα-smooth muscle actin, vimentinに陽性であり,desminには部分的に陽性であった.S-100
protein, GFAP, CD34, CD68, Cytokeratin, EMA, HMB 45にはいずれも陰性であった.またMIB-1
indexは一貫して5%未満と低かった.
<鑑別診断>
以上の結果を鑑み,我々は本例の鑑別診断として,Kaposi's sarcoma, Intranodal
schwannomaをまず考えた.しかし腫瘍本体はCD34で陽性に染色される血管壁の構造を持たないことから前者が,S-100
protein染色が陰性であることから後者が除外された.その他の鑑別診断,Leiomyosarcoma,
Benign metastasizing leiomyoma, Metastatic carcinoma, Metastatic malignant
melanomaも,核異型の乏しさや免疫染色の結果によって除外された.
<診断>
以上より本例はIntranodal palisaded myofibroblastomaと診断された.
<臨床的事項>
Intranodal palisaded myofibroblastoma(以下IPMとする)は,1989年,Weiss,
Suster, Rosaiらの3 groupによって同時に報告されたリンパ節原発の myofibroblast由来の腫瘍であり,現在まで本邦の2例も含め49例報告されている.臨床的事項としては(1)
40歳をピークとした19・78歳の広い年齢層に発症する.(2) 好発部位は鼠径部が大部分で,他に顎下部に3例,縦隔リンパ節に1例を見るのみである.(3)
予後は良好であり,ほとんど全例が単純切除で治癒している.転移もしくは再発例は2例見られる.
<組織学的特徴> IPMに特徴的な組織学的所見としては前述したように
(1) 楕円形の核がpalisading patternを呈して配列している箇所が見られる.
(2) spindle cellの増殖巣に混じて、エオジン好性で無構造性の帯状構造物 (amianthoid
fibers)を認める.
(3) 腫瘍はα-smooth muscle actin, vimentinに陽性であり,desminには部分的に陽性である.
<考察> IPMについて文献的考察を加える.
(1) この腫瘍は鼠径部に好発するが、その原因として腫瘍が由来するところのmyofibroblastが,他の部位のリンパ節に比べて鼠径部リンパ節に高い割合で含まれるからとされている.(Bigotti
et al, 1991)
(2) Amianthoid fibersの本態は,小血管周囲に沈着したType I & Type ?
collagenである.これらは小血管周囲の腫瘍細胞がtraumaやanoxiaの影響で変性を来たした結果であるとされている.(Skalova
et al, 1992)
(3) この腫瘍の発生について、Human herpes virus-8やEpstain- Barr virus感染との関連が示唆されているが,本例では検索がなされていない.
<結語>
右鼠径部に発生したIntranodal palisaded myofibroblastomaの1例を経験したので,報告した. |