第 58 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
特別報告
演題名 病理の将来への展望
-米国病院病理医視察をふまえて-
出題者および所属
仙台市立病院 病理科 長沼 廣
症例の概要・問題点
 病理学の将来に対する不安及び慢性的な病理医不足を解消するには、魅力的な病理作り、若手病理医の育成、経済的基盤作りが大切である。現在日本病理学会では今後の病理をどのように導いてゆくかを模索している。昨年病理学会海外研修派遣により米国の病院を視察してきたので報告する。
 視察病院はシカゴ市のThe University of Chicago Medical Center、Christ Medical Center、Evanston Hospital、ニューヨーク市のBeth Israel Medical Center, Roosevelt Hospital, St. Luke's Hospitalで、いずれも私立の病院である。
 Christ病院は9つの病院と、Evanston病院は2つのサテライト病院・数個の小さな病院と、Beth Israel病院はRoosevelt病院・ St. Luke's病院とグループを形成していた。私立の病院は診療レベルの向上並びに経営の合理化のために多数の病院でグループを作ることが多いようである。一方、公立病院は思うようにグループを作れず、退役軍人病院がグループを作っている程度である。
 各病院の病床数、病理医数、組織担当の検査技師数、病理組織検体数、一人の病理医が1日に診断する件数、迅速数、細胞診数、剖検数は表に示した。大学病院は研究専属の病理医や専門病理医がいるため、レジデント、フェローを合わせると60人近くの病理医が常勤していたが、一般中規模病院でも7人前後の病理医が常勤していた。Christ病院では一人の病理医が専門分野の臨床検査部門も担当しているが、他の病院では臨床検査専門医が担当していた。
 日本はアメリカの医療を模倣しつつも、人員を据え置き、医療費の削減を図っている。しかし、日本と米国の医療保険制度はかなり異なっている。現行の制度のまま米国と同程度の医療を実施すれば、個々の医療スタッフにかかる負担が何倍にもなる。現状のままで経済的基盤の充実を図るためには、運営の合理化と共に米国並みに入院日数を減らして病床稼働率をあげ、入院数や外来患者数を増やす方法が考えられる。だが、それで医療の質が保証されるかどうかは疑問であり、不採算部門がどんどん削減される可能性がある。
 一般病院の病理医を増やすためにはやはり病理が医療の中で占める重要性を示すこと、不採算部門ではないという経済的基盤作りが大切で、かつ病理が働きやすく、社会的にも魅力ある分野であることを示して若手病理医を育成することが急務であると痛切に感じた。