第 56 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 03 区分 A. 難解・問題症例
部位/臓器 気管,肺,胸膜 肺
演題名 咳で発症,臨床上過敏性肺炎が疑われた症例
出題者および所属
鎌田 満1),竹川 弘美2),鎌田 義正3)
1) 青森労災病院 検査科,2) 同第一内科,3) 弘前大学附属病院病理部
症例の概要・問題点
症例 41歳,男性。
主 訴 咳,発熱。
既往歴 10年以上前,十二指腸潰瘍の手術。3年前腸閉塞で手術。
家族歴 父脳卒中,母大腸癌。
喫煙歴 20歳から36歳まで10本/日,その後禁煙。
職業 20歳から半導体部品作製会社に勤務。ただこの10年間はその作製には
全く関わらず,除草剤試作の研究員(蕎麦等の植物を有機溶剤で抽出し、
10種類の雑草に散布してその生育への影響を調査する。)
動物・鳥類飼育歴なし
現病歴  平成11年10月初め頃から湿性咳嗽あり。軽快しなかったので,同年11月初めに当院一 内を受診した。胸部XPで両肺野に異常陰影を指摘され,診断確定のためTBLBを施行した が,確定診断つかず(コレステリン肉芽腫性肺炎?。間質性肺炎?。Tbc・BOOP・Sarcoidosis・好酸球性肉芽腫は否定的),外来で経過を見ることにした。
 平成13年3月24日から発熱(38度台)・咳あり。解熱消炎剤坐薬でも解熱せず,胸部XPで網状陰影が増強したので,3月26日入院した。
入院時 WBC 3,440 (Seg 59.6%),Hb 15.2,Plt 23.6万,TP 8.4,LDH 383,
CRP 2.98,CEA 2.1 (<5),ACE 23.2(7・25),KL-6 12,800 (<500),
寒冷凝集反応 ×64,マイコプラズマ ×40以下,LE試験:極僅か上昇,
喀痰:結核菌陰性,
血液ガス:pH 7.48,pCO2 33.0,pO2 59.0,HCO3 24.0,SaO2 93.4%
入院後 O2 2l (nasal)と,抗生剤(CTRX),ス剤(DEX) 4mgを投与した結果解熱したので,抗生剤を切り,ス剤もPSLに切りかえた。その後両肺野の網状陰影が薄くなったので,PSLの維持量(30mg→5mg)で経過を見ることにして,同年4月26日退院し,外来で経過観察とした。

 しかし殆ど自覚症状がないにも拘らず胸部XP所見が改善しないので,開胸肺生検を目的に入院し,同年7月12日,VATSを施行したが,配布した標本はその際肺生検したものである。

 その後外来で経過観察をしているが,時に発熱・痰がある以外特に自覚症状はないものの,胸部XP所見は殆ど変わらないでいる。
最近の検査成績 KL-6 5,717 (500未満),SPA 55.1 (43.8未満),
PO2 88.8,PCO2 35.6,pH 7.42,HCO3 22.9
胸部CT 右肺CTの経過を示した(画像1)。
組織所見 かなり広範囲の肺胞腔に、凡そ100・150μ大の非乾酪性類上皮肉芽腫が見られ,その周囲にリンパ球浸潤を伴っている(画像2)。その分布はリンパ行性とは考えられず、血管侵襲も明らかではない。肉芽腫内には巨細胞もみられるが,その多くは異物型である。肺胞腔の所々に泡沫状のマクロファージの集積や腔内繊維化があり、胞隔炎の像もみられる(画像3)。一部にはコレステリン肉芽腫もみられた(画像4)。
抗酸菌染色陰性で,PAS・グロコット染色でも真菌は同定されなかった。
鑑別診断として一応感染症,塵肺,サルコイドーシス(サ症),膠原病肺,薬剤性肺障害が挙げられるが,サ症にしては肉芽の分布が非定型的で,眼科的にブドウ膜炎はなかった。またそれ以外の何れも否定的である。
症例は平成15年1月にBALF検査を受けたが、その細胞の大多数はリンパ球で,CD4/CD8は11.4と上昇していた。後者の値が必ずしも一致しないが,原因不明の慢性型過敏性肺臓炎ではないかと思われる。

問題点 どのような病態か,また組織診断は。
最終病理診断 慢性型過敏性肺臓炎

画像1 画像2

画像3 画像4