第 56 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
教育講演 1
演題名 びまん性肺疾患の画像診断
・肺野微細構造からのアプローチ・
出題者および所属
 東北大学加齢医学研究所
   機能画像医学研究分野
         小野修一
症例の概要・問題点
初めに
 びまん性肺疾患の診断に対して、画像診断は病変の性状・分布の把握、経過観察等において重要な役割を果たす。その中心をなすのは、高分解能CT(HRCT)である。
HRCT (High Resolution CT)とは?
薄いスライス厚
   通常2mm以下(thin slice CT or thin section CT)
高分解能画像再構成
   高分解能再構成フィルター
   YMS(Bone, Edge),東芝(FC82,FC85),シーメンス(AB82)etc
   画像再構成領域(FOV)の限定
      拡大された画像表示(通常約1.3-2倍)
      分解能も向上
HRCTによる肺野疾患診断の利点
部分容積効果の軽減
陰影の形状・性質の正確な把握
陰影と既存の肺野微細構造との関係の描出
画像診断のアプローチ方法
画像 Xp, CT, HRCT, (MRI)
症状
現病歴
他検査所見
   理学所見、血液生化学的検査、肺機能検査、BALF etc.
患者背景
   年齢、性別
   既往歴、薬剤使用歴
   生活歴
   喫煙歴、職業歴、ペット飼育歴 etc.
病理診断と画像診断(HRCT)の比較
病理診断 画像診断(HRCT)
空間分解能 極めて高い
放射線科医にとっては無限大
そこそこ
現在250μ程度
濃度分解能 極めて高い 低い
見えるもの 多彩
特殊染色、免疫染色etc.
一種類のみ
X線吸収係数
経時変化の検討 ちょっと苦手 得意
全体像の把握 時に苦手 得意
侵襲性 有り 殆ど無し
画像読影のポイント
陰影の性状、大きさ
   すりガラス状影、浸潤影、線状・索状影、網状影、輪状影、蜂窩肺
      粒状影、結節影、塊状影、空洞、嚢胞、LAAs
         細葉大、小葉大、多小葉大
      陰影の分布
         中枢側、中間領域、外套領域・胸膜直下
         上・中・下肺野
         区域性・非区域性、肺葉性
         肺野微細構造との位置関係
      肺の容積変化
         縮小、過膨張
      肺野以外の病変
         リンパ節腫大・石灰化、胸水・胸膜変化、心拡大・心嚢液
         骨軟部病変、頸部・上腹部等
特徴的な分布を示す疾患
上肺野中心
   サルコイドーシス、気道散布性結核、好酸球性肉芽腫、塵肺、
小葉中心性肺気腫
中枢側中心
   肺水腫、肺胞蛋白症、塵肺
末梢中心
   UIP、DIP、NSIP、好酸球性肺炎、BOOP、膠原病肺、アスベストーシス、
肺梗塞
肺野の微細解剖 気管支
同大、不同大の分岐を繰り返しつつ細気管支の先端である前終末・終末の膜性細気管支を経て呼吸細気管支へ これら細気管支は二次小葉のほぼ中央部に肺胞管以下の末梢肺組織に囲まれて存在

小葉中心のこれら細気管支と末梢構造
(小葉間隔壁、胸膜、肺静脈、当該小葉外の気道・血管)まで2-3mmの距離
肺野の微細解剖 小葉中心
終末・呼吸細気管支
それらに伴走する肺動脈(直径150-200μm)
これがCTで血管として認識できる限界
それより末梢の細動脈や小葉内静脈枝は認識不能
肺野の微細解剖 リンパ管
気管支壁・肺動脈周囲
   末梢ほど肺動脈周囲の方が発達
   呼吸細気管支に伴走する肺動脈周囲まで存在
   これより末梢は組織学的にも同定困難
   肺胞中隔内には存在せず
小葉間隔壁、胸膜臓側下間質
肺野の微細解剖 小葉辺縁と小葉内
小葉辺縁部は肺静脈(100μm以上)、小葉間隔壁、胸膜、小葉気管支より中枢側の気管支(1mm以上)と伴走肺動脈

小葉内は中心部と辺縁部の構造の間に、肺胞管、肺胞嚢からなる気腔と動静脈・毛細管・肺胞間質が密に存在

肺胞間質:肺胞中隔内で肺胞上皮と毛細管壁の間の薄い部分
小葉と細葉
一次小葉
   呼吸細気管支の支配領域
細葉
   終末細気管支の支配領域
Reidの二次小葉
   小葉気管支(約1mm、3-5本の終末細気管支)の支配領域
   小葉間隔壁とは無関係
   大きさ約1cm、体積1-2ml、肺内どこでもほぼ一定
Millerの二次小葉
   小葉間隔壁で囲まれた小領域
   大きさは0.5-2.0cm、体積約2ml
   肺の前縁近くで小、肋骨面の平坦なところで大
   肺門近くでは小葉間隔壁の発達が悪く時に不明確
HRCTの肺野正常構造描出能
気管支
   2mm程度
   亜・亜々区域枝レベル
   胸膜直下から2cmより内層
肺動脈
   200μ程度
   終末細気管支・第一次呼吸細気管支に相当
小葉間隔壁
   多くは描出されない。
   肺前縁や下部の100μを越えるものは見えることも有る。
肺静脈
   胸膜より数mm離れたものまで描出
   時に小葉間隔壁と連続した線状影として描出
   小葉内の細静脈は見えない。
HRCTの限界
空間分解能の限界
   肺胞腔と肺胞壁の変化は区別不可能
濃度分解能の限界
   液体、細胞、線維化は区別不可能
二次小葉レベルの病変分布の分類 (図1: 文献1より)
a. 気管支肺動脈束の腫大および隣接肺野の高吸収域
小葉中心部主体の変化
気管支肺動脈束主体の変化
b. 気管支肺動脈束および小葉辺縁構造の両者の腫大或いはこれらの構造に重なる結節
c. 二次小葉と一定の関係を持たないランダムな分布を示す小結節
d. 肺野の高吸収域あるいは低吸収域
不均一分布
汎小葉性分布
e. 肺構造の改変
 
a-1. 小葉中心性分布
末梢肺動脈像と連続
胸膜・肺動脈像から2-3mmの距離
肺静脈・小葉間隔壁・中枢側の肺動脈像に囲まれた領域

DPB、気道散布性肺結核、NTM、過敏性肺臓炎、好酸球性肉芽腫、珪肺、気管支肺炎、マイコプラスマ肺炎、ウィルス性肺炎等

例: 過敏性肺臓炎 (図2)
a-2. 気管支肺動脈束主体の変化
小葉中心部にも病変があるが、これと連続する気管支肺動脈束の腫大と周辺肺野の濃度上昇が主体

気管支肺動脈束が連続的に腫大

マイコプラスマ肺炎、ウィルス性肺炎、慢性気管支炎、気管支拡張症

例: マイコプラスマ肺炎 (図3)
b. 気管支肺動脈束および小葉辺縁構造の腫大
気管支肺動脈束の肥厚 (thickened bronchovascular bandles)

肺野内リンパ路に沿った病変分布

サルコイドーシス、癌性リンパ管症、悪性リンパ腫・白血病の肺浸潤等

例: 癌性リンパ管症 (肺癌) (図4)
c. 二次小葉と一定の関係を持たない分布
小結節と二次小葉との関係が不明瞭で一定の関係の見られない分布

粟粒結核、悪性腫瘍の血行性転移、リンパ球浸潤性・増殖性病変(悪性リンパ腫、LYG等)

例: 血行性転移 (肺癌) (図5)
d-1. 肺野濃度上昇 不均一分布
肺野濃度上昇域が二次小葉と無関係に不均一に分布

UIP、DIP、NSIP、その他多くの疾患

例: UIP (図6)
d-2. 肺野濃度上昇 汎小葉性分布
濃度上昇領域の境界が明瞭

約1cm四方の小葉大

強い濃度上昇を示す領域の中に、軽度或いは健常な領域が同様の特徴を有して認められる場合がある。

BOOP、過敏性肺臓炎、EP、AEP、細菌性肺炎、気道散布性結核、マイコプラスマ肺炎、DAD、肺胞出血、肺水腫等

例: BOOP (図7)
e. 肺構造の改変
病変の存在により、既存の肺野正常構造が改変され、2次小葉等の肺野微細構造の同定とそれによる病変分布の判定が困難となる様な疾患

線維化:容量減少、太い気管支・血管の偏位・胸膜への近接、細気管支拡張、蜂窩肺

UIP、DIP、膠原病肺、サルコイドーシス、薬剤性間質性肺炎等の線維化病変の終末像、高度の肺気腫、腫瘤

例: 肺リンパ脈管筋腫症 (図8)
まとめ
びまん性肺疾患のHRCT診断の基礎を提示した。
各種疾患とその病変分布の関係を代表的な画像を提示しながら解説した。
画像診断は、病理診断程の分解能、組織contrastは無いが、これが通常苦手とする経時変化の観察や全体的な病変分布の把握に優れる。
画像診断は、形態・組織面からの診断に対して病理診断と車の両輪の如く貢献する診断法である。
参考文献
1) びまん性肺疾患の画像診断指針 
   日本医学放射線学会胸部放射線研究会編1998: 医学書院
2) びまん性肺疾患の高分解能CT 酒井文和・他編 1998: 秀潤社
3) 胸部のCT 池添潤平・村田喜代史編著 1998: 医学書院MYW