第 51 回 日本病理学会東北支部学術集会(JSP −TN) 抄録データベース
演題番号 12
部位/臓器 その他(全身性)
演題名 ワイル病 (Leptospira icterohemorrhagiae感染症)の1剖検例
出題者および所属
大谷紀子1)、矢野光士2)、角道紀子2)
涌澤圭介2)、秋山和夫3)、大谷明夫4)
名倉 宏4)
1) 東北大学医学部附属病院病理部 2) 古川市立病院
3) 塩釜保健所 4) 東北大学大学院・医・病理形態

症例の概要・問題点
症例 45歳 男性 農業従事者
既往歴、家族歴 特筆すべきことなし
臨床所見概要 患者は45歳 男性。発熱、全身倦怠等で発症し、黄疽、腎不全等の症状を呈して、
プレショック状態で古川市立病院に運ばれた。これらの発症時期、肝機能ビリルビン値、
血清検査値等からワイル病を疑った。患者は、黄疽、出血傾向、尿蛋白強陽性を示し、
レスピレータ等の管理、輸血等を行ったが、症状は激烈で急峻にすすみ、
入院後3日目(全経過6日)に肺出血でなくなった。

検査値概要 尿蛋白(+++)、尿糖 (++)、血清総蛋白4.9(6.5-8.5)
WBC 15300, RBC 322 x 104, Hct 28.0%,
血小板1.7 x 104 (10x104<),
プロトロンビン時間 86.9 sec(10-13), 活性化thromboplastin 44.5(24-40),
Fibrinogen 723, 総ビリルビン 15.9(2.1-1.1mg/ml), 直接ビリルビン 9.3
(0.1-0.5 mg/ml), GOT 52, GPT 48, ALP 202, LDH 568,
脳脊髄液 細胞数1,017(好中球)

診断 ・菌の分離:心嚢液よりleptospira様菌体を確認。
・血清診断:芝浦株において一回目、x10、二回目x40で陽性。
       この結果よりワイル病と診断確定した。
・遺伝子検出:二回目の血清およぴ髄液のPCRによりleptospira遺伝子を確認。

剖検概要 [臓器重量] 身長174cm 体重69kg 肺:右2000g 左1850g 心臓:670 g
肝2300g 腎:右250g 左250g 脾臓:130g 胸水(-) 心嚢液(少量) 腹水50 ml
心臓、肝臓、腎臓などの各種臓器の腫大が著明。肺には両肺全体にわたる肺胞内出血、
気管支腔内出血が著明で、これが死因と思われる。炎症反応は目立たない。
臨床的には黄疽があり血中ビリルビン上昇が目立つが、肝臓に胆汁鬱滞や線維化、
肝細胞壊死などの病変は目立たない。
腎臓ではリンパ球をはじめとする炎症性細胞浸潤が著明で、
尿細管の損傷が見られる。複数臓器に好中球漫潤が軽度に認められた。
脾臓、気管分岐部リンパ節等リンパ装置の腫大が著明で、ミクロ所見上、芽球浸潤が目立ち、
敗血症に対する反応と考える。


問題点 本例は宮城県で16年ぶりのWeil病の症例である。
Leptospira icterohemorrhagiae(スピロヘータの一種)感染症で、本症例は
Weil病としては定型的な臨床症状を呈した。著明な肺出血で亡くなっており、
さらに臨床的に敗血症症状を呈し、肝機能障害、腎不全等を伴っていた。
感染症の一例として病態につき考察を試みる予定であるが、種々ご教示いただきたい。

最終病理診断 Weil病

配布標本 (1) 肝臓 (2) 肺